近代化の過程において「人形」が「女児文化」に位置づけられ、「女性にふさわしいもの」とみなされた歴史に着目し、ジェンダー論および身体論を援用しながら、現代における「人形」の創造とその受容の様相を解明を目指した。 最終年度にあたり、これまでの収集した資料の調査分析のまとめとして論文を執筆し、学会誌に投稿・査読を経て採用された。当該論文「近代日本における女性と人形制作―上村露子とその活動の再解釈」は、これまで女性史と人形研究という異なる研究領域において名前を知られていた和製フランス人形の創始者上村露子(かみむらつゆこ)を、女性運動家であり人形作家でもあるという上村の二つの側面を統合し、上村の再解釈を通じて、女性が人形を制作することの社会的意義とその受容についてジェンダーの視点から明らかにした。 近代は人形の女性化(ジェンダー化)が達成された後、主に男性が携わる芸術的人形と主に女性が携わるアマチュア的人形を分離するという再ジェンダー化が行なわれた。その歴史的分岐点に立ち会った上村は、フランスに影響を受けた和製フランス人形を創出する。上村は女性に向けて普及活動を行ない材料の通信販売などを通じて経済的基盤を確立した。女性運動家としての上村は経済的基盤の確立を第一義とし、芸術的方向性は目指さなかった。それはジェンダーロールの受容という側面を持ちつつも、それに携わった女性たちの創造性の発露を促したという面もまた見逃すことはできない点を指摘した。
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