本研究の主な目的は、戦後、東アジアの文化空間において日本軍慰安婦がどのようにまなざされ表象され想起されてきたのか、そしてそこにどういった政治的無意識が働いているのかを、日本・韓国・台湾(中国)の様々な文化的生産物における文化的記憶から比較分析し、ひいては東アジア諸国と日本の間の相互理解増進の一助とすることであった。それに向けて今年度は、これまでのテクスト分析をさらに発展・深化させながら、その結果を様々な形で公開・共有し、新たな研究課題設定へつなげるように努めた。 とりわけテクスト分析においては、これまで様々な制約(テクストの入手や翻訳など)により分析が容易でなかった台湾(中国)の慰安婦関連テクストに光を当てることができた。そのうえ、北朝鮮まで視野に入れ、慰安婦をめぐる文化的記憶と被害者意識・ナショナリズムの(再-)構築・強化のプロセスにおける普遍性と特異性を、ジェンダー、セクシュアリティ、エスニシティ、ポストコロニアリズム、精神分析などから分析を進めることができたことは大きな収穫であるといえる。こうした今年度における研究対象と研究範囲の拡大により、これまでの日本と韓国を中心とした研究に深みがもたらされ、より総合的で立体的な研究が可能になった。中国や北朝鮮と関連したテクスト分析はまだ途中であり、公開できたのはその一部に過ぎないが、とりあえず研究の厚みと多様性をもたらし、さらなる研究課題へシフトできたことから評価できると思われる。
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