本課題は、歴史的に日本と深い関係のある旧南洋群島の女性たちの身体、生、性に起きた経験と問題を記録し、明らかにする。その作業は、これまで光が当てられてこなかった現地の女性たちの歴史を再構築することであり、戦前の日本統治時代の遺制、つまり現在的問題を検証することにもなる。つまり、彼女たちの身体をめぐる様相や状況を調べる作業を通して、委任統治の形態がたとえ領土支配が含まれていないものであったとしても、植民地主義的支配の形態として見なしえる、一つのポストコロニアルな視点からの問いでもある。具体的な研究対象の一例は戦前に起こった日本人男性との間に生まれたいわゆる「混血児」に関する過去、現在の様相をその当事者及び家族から聞き取りを行い、その実相を考察し、歴史の一片を再構築するものである。またなぜ、多くのミクロネシア女性と子供たちは戦後日本に引き揚げなかった、できなかったのかという原因を日米両国の政府側の資料が残存しているのか、あるいはそもそもそのようなことがわかる資料そのものが作成されたのかなどの確認作業も含めて探求し、それに関する資史資料が出てくれば、そこから歴史的要因を調べ分析し、その答えを見つけることを目指した。 最終年度の成果としては、ハワイや米国西海岸の都市で日本人の祖父を持つチューク出身の複数のミクロネシアンたちからその家族に関する記憶を数時にわたり録音することができた。これらの聞き取りを整理、検証していく中でこの問題に関する総合的な側面が更に明らかになった。全期間を通しての成果は、日本人との間に生まれた現地の人々との戦後の関係性についての研究がほとんどないということがわかった。史資料の存在を確認するのは極めて困難であるが、インタビューから得た歴史的事実とその実態をある程度把握することができ、今後の課題も見えてきた。現在これらの成果を記述し、残していく作業に取り組んでいる。
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