研究課題/領域番号 |
16K02064
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研究機関 | 沖縄国際大学 |
研究代表者 |
澤田 佳世 沖縄国際大学, 総合文化学部, 教授 (60454998)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 人口 / 生殖 / 家族計画 / 出生 / 沖縄 / 冷戦 / ジェンダー / USCAR |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、戦後沖縄の人口と生殖する身体をめぐるポリティクスについて、冷戦の地政学とジェンダーの視点から探究することである。日本で最高の出生率を維持する沖縄について、米軍政下の人口と生殖の意思決定の場に焦点をあて、冷戦体制下で周辺化された人口と生殖管理政策の展開を文書資料・生活史料等に基づいて分析する。これにより、①沖縄という周辺地域における人口と生殖をめぐるグローバル・ポリティクスの展開、②助産婦・公衆衛生看護婦・医師など専門職集団が展開した生殖に関するローカルな交渉、③人口と生殖する身体をめぐるグローバルな政治とローカルな文脈の動態的な相互作用とそのジェンダー的含意を考察する。 今年度は上記①を検討するために、USCAR Women’s Clubを中心とするUSCAR 文書、USCAR 広報誌、その他関連資料を探索・一部収集・整理した。資料収集の目的は、米軍統治下の沖縄における人口(出生)抑制政策と家族計画に関する米国側の関与のあり方を詳解することである。沖縄県立公文書館の所蔵資料を確認した上、更なる資料発掘の可能性を検討、国立国会図書館で資料を探索した。USCAR広報誌『守礼の光』『今日の琉球』を全巻閲覧し、沖縄の人口抑制と家族計画に関連する記事を収集した。人口関連では移動・移民の記事は多いが、出生抑制と家族計画に関する記事は台湾・米国・国際社会の状況に一部触れたものを除きほとんどなかった。これ自体が重要な知見となるが、当時の文脈をつかむため公衆衛生や母子保健、移民や寿命、家族形成や再生産労働、家政学など関連する記事も収集した。USCAR Women’s Clubの活動記録は体系的に整理されておらず、次年度以降、更に時間をかけて資料探索・収集する予定である。今年度収集した資料は、すでにコピー・収集済みのUSCAR文書等とともに、大学院生の協力を得て整理過程にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度の評価は「おおむね順調に進展している」である。本務校の教務・業務負担により夏以降体調を崩しがちであったため、今年度と次年度以降の調査地域の調整・再配置を行い、3年間の研究計画全体の進捗状況に支障をきたさないよう努力した。 具体的には、当初の研究計画にあった米国国立公文書館での資料収集を一度見合わせ、米国国立公文書館と日本国立国会図書館及び沖縄県公文書館におけるUSCAR文書など関連文書の所蔵状況の比較を行った。その際、USCAR文書、とくに本研究課題に関連する文書の複製が米国国立公文書館から移管され、国内に所蔵されている状況がつかめた。これをふまえ、今年度は主に国内での資料探索・収集に従事することとした。合わせて、日本の家族計画と米国の国際人口政策とのトランスナショナルなつながりを研究する研究者(英国拠点)と情報交換を行い、関連資料を所蔵ないし新規資料発掘の可能性のある米国の大学及び民間財団の資料館・図書館に関する助言を得た。これらは、次年度以降の調査訪問先として組み込む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」で記した目的を達成するために、「①沖縄という周辺地域における人口と生殖をめぐるグローバル・ポリティクスの展開」に関する調査を継続し、「②専門職(助産婦・公看・医師ら)集団がくり広げた沖縄の生殖をめぐるローカルな交渉の諸相」に関する調査研究を開始し関連資料を収集・整理・分析する。 上記①については国立国会図書館で、population/family planning/planned parenthood/birth control/ fertility/USAID等のキーワードでUSCAR文書を検索、資料収集・整理を続ける。USCAR Women's Clubに関する資料も含む。加えて「現在までの達成度」で記したように、資料所蔵が見込まれる米国の大学・民間財団の図書館・資料館を選定、沖縄の人口政策・家族計画に直接的・間接的に関連する資料の探索・収集を開始する。関連文書の一つ(サンガー文書)については、国内大学図書館に複製所蔵が確認されており、訪問先候補として検討しつつ、米国訪問先の再調整を行う予定である。 上記②については、沖縄県内の公文書館・公立・大学図書館にて、沖縄の人口政策と家族計画に関与した専門職集団の記念誌・広報誌、生活史料を探索・収集・整理する。既に収集済みである沖縄家族計画協会の広報志や報告書、沖縄家族計画協会員の私蔵資料、関連する新聞・雑誌記事等と合わせて、収集資料を体系的に整理したいと考える。これら研究課題について、新たな知見が得られた場合には成果発表も随時開始する。 2017年度(2年目)までに上記の研究をすすめた後、3年目は①②の調査研究の結果を相互に関連付け、生殖する身体をめぐるジェンダー・ロジックに注目しながら、「③沖縄の人口・生殖に関するグローバルな文脈とローカルな政治の相互作用のあり方」を検討、調査報告書を作成する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在の達成度」に記したように、本務校の教務・業務負担により夏以降体調を崩しがちであったため、今年度と次年度以降の調査地域の調整・再配置を行い、3年間の研究計画全体の進捗状況に支障をきたさないよう配慮した。具体的には、当初の研究計画にあった米国国立公文書館での資料収集を一度見合わせ、米国国立公文書館の所蔵資料と日本国立国会図書館及び沖縄県公文書館に所蔵されているUSCAR文書をはじめとする関連文書の比較を行った。これにより、関連文書の移管と国内所蔵状況がつかめたため、「研究実績の概要」に記した通り、今年度は主に国内での資料探索と収集に従事した。よって、旅費を中心に支出残高が多くなり、次年度使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
「研究実績の概要」及び「現在までの達成度」で記載したとおり、国内は主に東京・沖縄、関西、国外は米国を調査地に、①周辺・沖縄における人口と生殖をめぐるグローバル・ポリティクスの展開に関する調査を継続しながら、②専門職(助産婦・公看・医師ら)集団がくり広げた沖縄の生殖をめぐるローカルな交渉の諸相に関する調査研究を開始し、関連資料を収集・整理・分析する。 以上の研究実施計画に従い、研究費の使用予定は以下のとおりとなる。主な研究経費は、東京・関西ならびに米国での資料収集調査とその成果発表を行うための国内・国外旅費である。加えて、資料を整理するためのデスクトップパソコン、現地調査の必要機材・設備備品としてPC周辺機器などを購入する。その他、図書資料の購入、交通費と専門知識提供者・翻訳通訳業務への謝金、資料整理担当者への謝金、文房具等の消耗品費、複写費、通信費等を必要とする。
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