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2016 年度 実施状況報告書

中世の紀伊半島における歴史遺跡・名所の創作および保存・活用事業データベースの作成

研究課題

研究課題/領域番号 16K02069
研究機関和歌山大学

研究代表者

海津 一朗  和歌山大学, 教育学部, 教授 (20221864)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード紀伊半島 / 中世遺跡 / 遺跡捏造 / 旧仏教改革派 / 禅律僧 / 熊野詣 / 紀州惣国 / 寺社勢力
研究実績の概要

紀伊半島は禅律僧とよばれる旧仏教改革派(穏健派)の宗教集団が蟠踞して、過去の歴史を再現することによって支配圏の確保をめざすという中世的な手法がみられる点で全国的にも類例のない地域である。16世紀には、織豊政権に対してアジア海域連合の倭寇共和国・日本支部として独自性を主張し続けた(1585に太田城水攻めで滅亡)。したがって、県域には異常な数の歴史的遺産(史跡・天然記念物)があふれているがその多くが実は中世惣国の時代の遺産なのである。この研究では、データベース構築の前提となる事例発掘を、観光学の範疇のなかで進めることを目的とする。
中世的支配の正当性は「徳政」(あるべき過去の復活再現)であり、公武の支配権力は自己に都合の良い歴史物語作りのために、歴史遺産の活用を推進した。とくに紀伊半島においては、16世紀には紀州惣国という寺社勢力の連合国家が成立しており、この傾向が顕著だった。
筆者は、中世の寺社勢力による神領興行運動を取り上げた単著『中世の変革と徳政』以後、赴任地の紀伊半島(中世紀州惣国)をフィールドとして、高野山領・日前宮領・神護寺領・根来寺領の具体例にもとづいて、禅律僧(顕密仏教改革派)たちの地域活動を考察してきた(単編著『中世終焉』『かせ田荘の研究』『中世都市根来寺と紀州惣国』など。神領興行運動とは古代神話時代を復活・再現するという宗教運動で、具体的には異国降伏神戦、造寺造仏の修造事業、荒野開発・港湾整備、蒙古・悪党ら敵対者への神戦(調伏祈祷)等が行われた)。このような事例研究の積み重ねのなかで、神領興行に共通する前提として、史跡・建造物などの歴史遺産(モニュメント)を再現(顕彰)して、地域の歴史的由緒をアピールするという宗教活動が認められることに気付いた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

第一年次はもっともオーソドックスな史跡として、熊野参詣にまつわる諸遺跡(小栗説話や道成寺物語の関係史跡・伝承)について捏造した主体をしらべた。さらに、こうした歴史捏造による観光資源の創出という手法の意義を考えるため、和歌山市の現在進める沙也可=紀州人説について、広やかな視座から史料を集めた。歴史学と観光学のはざまにある問題群であり、地域活性化の実践として独自集会・研究会を行った。
つぎに、紀伊半島の研究状況をおさえるために2つの研究会を立ち上げた。①現実の中で歴史学を活用していく方途について観光の視点から問い直す「観光マインド学芸員の会」(全国組織)、②紀伊半島の史跡や説話が世界史的なひろがりをもっていることを地域・時代ごとに追究する「紀伊半島世界史研究会」である。前者は専門職である学芸員や発掘技師、後者は学校教員を主要なメンバーとして、それぞれ企画出版をめざすことで紀伊半島遺跡の重要性を明らかにしようとする研究組織である。
最後に、紀伊半島と他の海浜地域を比較するため、改革派仏教勢力の各地をフィールドワークして史料を集めた。兵庫加古川市、奈良市、大阪泉南地区などである。また沙也可の歴史普及のため韓国大邱の韓日友好館と連携して韓国作成ビデオを得た。

今後の研究の推進方策

第二年次は紀州惣国の成立にまつわる史跡として、雑賀衆・根来衆・湯河衆など熊野水軍勢力に関する諸遺跡(太田城水攻めや雑賀踊・和歌祭・御田舞)について捏造した主体をしらべたい。さらに、こうした歴史捏造による観光資源の創出という手法の意義を考えるため、沙也可=紀州人説について、継続的に調査する。学芸員の「観光マインド」不足という行政の指摘について、インバウンドを重視する紀伊半島の立場から考察したい。
つぎに、紀伊半島の研究状況をおさえるために立ち上げた2つの研究会について、企画主版を含む研究成果交流をすすめたい。①現実の中で研究を問う「観光マインド学芸員の会」は研究会の開始を、②「紀伊半島世界史研究会」では企画出版を実現したい。さらに、学校教育現場に即して、史跡捏造のノウハウに学んでレプリカ作りをすすめて教育効果を向上させたい。
さらに、紀伊半島と他の海浜地域を比較するため、改革派仏教勢力の各地をフィールドワークして史料を集める。高野山金剛峯寺・天野社の事例によって、対外戦争の時期に多くの捏造遺跡が作られることが余所されるので、九州の博多志賀島と佐賀県神崎荘の元寇遺跡は紀伊半島の勢力と直接かかわるので早い時期に史料収集したい。大阪泉南地区は惣国国境であり、奈良県一帯の国境もあわせて事例追究したい。また韓国大邱の韓日友好館と連携もさらに継続・充実したい。

次年度使用額が生じた理由

9月に自己の研究テーマである新田義貞祭礼が入ったためにその時期の沙也可研究で支出予定の出張費がつかえなかったために残額が生じた。

次年度使用額の使用計画

次年度に同計画を執行する

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2017 2016

すべて 学会発表 (5件) (うち招待講演 3件) 図書 (2件)

  • [学会発表] 楠木流兵学の起源2016

    • 著者名/発表者名
      海津一朗
    • 学会等名
      正忍記の会例会」
    • 発表場所
      和歌山県立博物館
    • 年月日
      2016-10-23 – 2016-10-23
    • 招待講演
  • [学会発表] タケンコマンと山東地域の中世2016

    • 著者名/発表者名
      海津一朗
    • 学会等名
      山東町づくりの会講演会
    • 発表場所
      伊太祁曽神社
    • 年月日
      2016-08-27 – 2016-08-27
    • 招待講演
  • [学会発表] いま中世日本の国境地帯を考える2016

    • 著者名/発表者名
      海津一朗
    • 学会等名
      和歌山大学岸和田サテライト講演会
    • 発表場所
      岸和田市浪切ホール
    • 年月日
      2016-08-11 – 2016-08-11
  • [学会発表] 新科目歴史総合と紀伊半島世界史研究2016

    • 著者名/発表者名
      海津一朗
    • 学会等名
      紀伊半島世界史研究会例会
    • 発表場所
      笠田高校
    • 年月日
      2016-05-21 – 2016-05-21
    • 招待講演
  • [学会発表] 紀伊半島から考える世界史2016

    • 著者名/発表者名
      海津一朗
    • 学会等名
      和歌山高校社会科研究会大会
    • 発表場所
      和歌山大学地域連携生涯学習センター
    • 年月日
      2016-05-18 – 2016-05-18
  • [図書] わかやまを学ぶ 総論わかやまの反逆者たちー追憶のSAYAKA2017

    • 著者名/発表者名
      藤田和史・東悦子・海津一朗ほか
    • 総ページ数
      186(3-12)
    • 出版者
      清文堂
  • [図書] 道成寺の縁起 伝承と実像2017

    • 著者名/発表者名
      海津一朗
    • 総ページ数
      80
    • 出版者
      和歌山大学紀州経済史文化史研究所

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公開日: 2018-01-16  

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