本研究から以下の点が明らかになった。第一に、ロンドン大会への評価報告書の検討から、レガシー構想の5つの目標に沿う形で、スポーツ参加者やアスリート支援費の増加、ロンドン東部再開発の進展、雇用創出など経済成長、文化プログラムやボランティア参加者の増加、パラリンピック面の支援充実など、いずれも具体的数値を伴って高い評価を獲得している点が確認された。またOGIレガシー最終評価報告では、環境・社会文化・経済の三分野67の指標に基づき主に持続可能性の観点からのデータ分析で、総じて否定的な影響は見当たらず、ロンドン大会が変化の触媒として強くポジティブな結果を示した点が確認された。 第二に、観光政策面のレガシーとして新たに「ゴールデン・レガシー」 が公表され、2020年までの英国の観光政策の長期目標が新たに明示化された。実際、大会後の国際観光客受入数が2012年の約2930万人から2018年には3921万人と右肩上がり増加傾向を示し、国際観光収入も総じて増加傾向にあるなどレガシー戦略に伴うポジティブな効果を示すデータと共に、“Beyond London”など首都ロンドン周辺への観光促進策の進展が確認された。 第三に、メイン会場跡地の変化について訪問者へのアンケート調査と元政府大会再開発アドバイザー等へのヒヤリングを実施した。その結果、人が訪れにくい“移民と労働者の閉鎖的なコミュニティ”として従来知られた地域が、オリンピックを機にロンドン東部の一大拠点として再生し、国内外の鉄道交通拠点、選手村跡の集合住宅、欧州最大級の公園と巨大ショッピングモールを併設した居住・集客・ビジネスの三要素を伴うエリアへ、また新たに大学、博物館、劇場、省庁・金融のオフィス、デジタル産業の拠点など、テクノロジーと文化施設・アートなどクリエイティブな価値創造の次元を結集した創造都市へと再生されつつある点を確認した。
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