本研究は、島根県松江市を事例に、地方自治体における観光行政の展開を明らかにするものである。令和元年度に実施した研究実績については、概ね以下の通りである。 1.平成元年(1989)、松江市で開催された「第21回全国菓子大博覧会(以下、松江菓子博)」と松江菓子博が今日の松江市の観光に与えた影響を考察した。 松江菓子博は、松江市制施行百周年を記念して誘致されたもので、明治44年(1911)の「第1回帝国菓子飴大品評会」を起源とする全国菓子大博覧会のなかで、菓子業界と自治体(松江市)が共催した初めてのものであった。松江市はその記念の年に自治体誌の発行、都市基盤整備、各種イベントの開催等、様々な事業を企画したが、松江菓子博はそのなかで最大の記念事業であった。その当時、地方博覧会のブームであり、行政主体の博覧会が失敗に終わる例が少なくなかった。しかしながら、松江市は、菓子の博覧会でありながら、菓子を前面に出すのではなく、「歴史」「伝統」といった文化的な語を並べつつ、茶文化を強調し、市民からの共感を得ることができた。松江菓子博は、入場者数、収益の面で成功を収めたが、菓子と連動した「茶文化」と松江の関係を印象付けた成果が大きかった。本研究の成果については「松江観光における茶文化ー第21回全国菓子大博覧会との関係から」『日本国際観光学会自由論集』(3)にて、公表した。 2.今日の松江市観光を象徴する人物、明治の文豪小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)、ならびに、茶人として有名な松江藩松平家第7代藩主・松平治郷(不昧)について、都市の象徴、観光資源として形成する過程、行政や市民からの受容の変化について、考察した。研究の成果は『松江市史通史編5近現代』(松江市史編集委員会編)にて公表した。
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