研究課題/領域番号 |
16K02104
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研究機関 | 公益財団法人学習ソフトウェア情報研究センター |
研究代表者 |
松本 慎二 公益財団法人学習ソフトウェア情報研究センター, その他部局等, 研究員 (50454195)
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研究分担者 |
朝田 健治 サイバー大学, 世界遺産学部, 客員教授 (00465460)
内海 麻利 駒澤大学, 法学部, 教授 (60365533)
澤井 進 公益財団法人学習ソフトウェア情報研究センター, その他部局等, その他(移行) (60462933)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 文化財保存と都市化 / 都市化と観光政策 / 文化的景観 |
研究実績の概要 |
文化財保存と都市化に関わるオー・ドゥ・セーヌ県ブローニュ・ビヤンクール市のアルベール・カーン資料館および庭園を日仏比較研究の例としてとりあげた。アルベール・カーンはアルザス出身のユダヤ人銀行家で、日露戦争遂行時に日本が募った戦時国債のかなりの額を個人として引き受けた人物である。ブローニュ市にある同資料館はもともと彼の居宅であったところで、1929年の世界大凶で彼が破産した後は県の所有となっていた。2016年国の文化財に指定され、これにともなって同館庭園内にアルベール・カーンが100年以上前に私財を投じて建設した和室二棟の全面改修を実施、さらに第二資料館が隈研吾氏によって現在新築中である。 和室の改修にあたっては檜材などを日本から輸入、技術者も京都の専門家(宮大工棟梁等)を派遣、原建築の正確な再現を期した。なおこの二和室はこれまで日露戦争の際のカーンの日本戦時国債引き受けを謝して明治天皇から贈られたと考えられていたが建築開始は日露戦争開始前であり、日本からの専門職(宮大工)の派遣、原資材の調達等すべてアルベール・カーン個人が負担していたことが明らかにされた。現在茶道裏千家の寄贈になる3棟目の茶室も改修されている。また隈研吾氏による第二資料館は本年中に竣工の予定である。 文化遺産の保全と都市化に直面する行政の関係については引き続き、市街地中央部に登録世界遺産を数多く有するリヨン市の観光行政担当者からの聞取り調査を行った。また国の観光行政の一環としての啓蒙活動に着目し、2500 monuments et sites ouverts au public--Le Guide du Patrimoine en Franceなどの資料収集にあたった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25-27年度の研究成果を継承し、引き続き日仏の世界遺産を有する都市の直面する都市化と文化遺産保全の問題の比較検討を進めてきた。またその具体例として本研究では最近フランスの文化遺産に指定されたオー・ドゥ・セーヌ県ブーローニュ市のアルベル・カーン資料館とその庭園を新たにとりあげ、国の文化遺産指定にともなって県のアルベール・カーン資料館に対する取り組みがどう変化したかを具体的に検証し、なお未詳のことが多いアルベール・カーン個人の生涯についても日仏共同研究チームをつくって研究を開始した。日本の明治神宮国際神道研究所におけるセミナーAlbert Kahn:"Portrait of a Forgotten Millionaire"(2011), 単行書「世界遺産で巡るフランス歴史の旅」(2013)、ストラスブール大学におけるセミナー「アルザス出身の銀行家アルベール・カーンの生涯」(2015)などが先行研究、本研究機関中の課題進捗状況の例として挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
最終的にはユネスコ、アルベール・カーン資料館、日本の渋沢栄一記念館等関係機関の協力を得て「文化財保全と都市化」を主題に国際的なシンポジウムを開催し、日仏の事例研究を募りたい。 文化財保全と都市化の主題については、過去に予備調査を行った都市のうち、最も都市化が進み、かつ市域の60%あまりが世界遺産登録されているボルドー市を特に念頭におき、都市全体の近代化と文化財保全をいかに調和させているかについて検証を進めたい。特に文化的景観の保全を認められて世界遺産リストに登録されていたドイツのエルベ川渓谷が、架橋に伴う景観の変化によって登録を抹消された(2009)事例との比較検証が有効と思料される。ボルドーの場合は市郊外、ガロンヌ川に架橋された超現代的な形態のシャバンデルマス橋が、世界遺産地域への交通を容易にしたと積極的評価を与えられている。他方、リヨンの場合は旧市街中央部の世界遺産建築などの保全のため、クルマの進入が厳しく制限されている。これらの多様な対応をセミナーなどで共有することは多いに有益と考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
アルベール・カーン資料館側の修復改修作業の進行度合いが遅延したため、研究協力者1名の海外出張を延期、研究代表者の国外出張不足額の補填に充当したため、差し引き13万円あまりが次年度に繰り越された。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越金は本年度に実施予定の研究協力者のフランス出張経費の一部として利用する。
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