研究課題/領域番号 |
16K02105
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
今井 正浩 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (80281913)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 精神疾患 / 精神病理学 / ヒッポクラテス医学派 / 医学者ディオクレス / 医学者プラクサゴラス / 脳中心主義 / 心臓中心主義 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,精神疾患の病理を通してみた西洋古典古代の人間観の特質を,古典ギリシア語・ラテン語の原典資料等の内容分析をもとに, 実証的に解明しようというものである。 おもに,前5世紀における経験科学としての医学の誕生が,この種の疾患をめぐるギリシア人の共通理解に大きな転換をもたらしたという事実に着目することによって,ギリシア古典期からヘレニズム期・ローマ期にいたる西洋古典古代の人間観の展開の中で,医学者たちがどのような思想的貢献をなしたかを解明することが,本研究の主眼である。 本研究の第二年目にあたる平成29年度には,ヒッポクラテス医学派の精神病理学の伝統の形成において,きわめて重要な役割を果たしたと考えられる『神聖病論』の著者(ヒッポクラテス自身であるかは不明)の精神病理論が,カリュストス出身の医学者ディオクレスやコス出身の医学者プラクサゴラスら,ヒッポクラテス以降の医学者たちによってどのように受けつがれていったかという点に焦点をあてながら考察を進めていった。 この二人の医学者のうち,プラクサゴラスに関しては,精神病理学的な観点も含めて,かれの医学理論・方法論がヒッポクラテス医学派の医学理論・方法論に対する批判的応答となっていることをすでに明らかにした。医学者プラクサゴラスのほぼ同時代人にあたる医学者ディオクレスについても,アリストテレスの生物学モデルからの強い影響下において,心臓中心主義に基づく人体モデルに依拠する一方で,脳中心主義に立った『神聖病論』の著者の精神病理論と共通する側面をもっており,そこにこの医学者とヒッポクラテス医学派との接点が存在することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3年計画を予定している。 初年度にあたる平成28年度においては,精神疾患に対する当時のギリシア人社会の一般的理解が,前五世紀における経験科学としての医学の成立によってどのように変化していったかという点を,ヒッポクラテス医学派の医学書(おもに『神聖病論』)の議論等の分析をとおして明らかにしていった。第二年度にあたる平成29年度には,精神疾患をめぐるヒッポクラテス医学の伝統が,ヒッポクラテス以後の医学者たちによってどのように受けつがれていったかという点に着目 した考察を進め,一定の成果をあげた。 以上のことから,本研究は当初の計画にそって,概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度にあたる平成30年度の前半期には,精神疾患をめぐる医学者たちの病理論の展開が倫理的・社会的諸概念にもとづく「新たな人間像」の成立をどのように促していったかという観点に立った考察をすすめる。 平成30年度の後半からは,それまでの研究の諸成果を総合することによって,これらを一連の論考へととりまとめる作業にとりかかる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の予算執行期間中に購入を予定していた関係資料(書籍)が,当初予定していた時期に間に合わなかったことから,平成29年度の執行予算に小額の残額が発生した。 平成30年度には,この点を考慮して,研究遂行に追加的に必要となる図書・資料類の購入等の予算執行を行う予定である。
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