本研究は、先行する申請課題「「現在の平面」―西田幾多郎における時間論と存在論」(基盤 C、H25-27)において得られた研究成果を継承し、発展させるものである。これまでに申請者は、西田幾多郎の各時代の著作において、「時間」がどの ように捉えられているかを、イタリア語に全訳しながら分析してきた。その過程において、西田が前期から後期へと独自の哲学を発展させながら、プラトン主義的な「永遠」から、それとは異なる「現在の平面」のような「永遠の今」の非形而上学的な時間論へ進んでいったということが 分かってきた。西田の時間論の中には、晩年のデリダの「幽霊」が中心になる時間論と非常に近 いものがあり、また彼の美学・芸術論が密接につながっていることが明らかになった。本研究においては、西田の全著作において、「時間」の概念がどのように記述されているかについて抜き出し、各時期の記述を西田の思想展開の中で跡づけることを試みた。特に、西田の時間論と美学、存在論の関係について、他の哲学者と比較を行ないながら、特にドイツ、イタリアの研究協力者と議論を踏まえつつ、考察を行なった。それに平行して、近年継続して行ってきた西田の著作のイタリア語訳を引き続き行ない、イタリアにおける西田幾多郎全集の出版活動も続けた。平成 30 年度には、西田全集イタリア語版の第2巻として『思索と体験』の翻訳・改訂を行い、出版することができた。西田と美学の関係についても考察をすすめ、イタリアの哲学関係雑誌に投稿を行った。ベルギー、ヘント大学での国際ワークショップで発表を行い、その内容を英語で出版した。また、ユトレヒト大学での国際シンポジウムに参加し、イタリア、パドヴァ大学において西田の美学をテーマとしたセミナー、ベネチア大学においては研究発表を行い、東北哲学会にて発表も行うなど、国内外での学術ネットワークを広めることができた。
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