研究課題/領域番号 |
16K02107
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
服部 健司 群馬大学, 大学院医学系研究科, 教授 (90312884)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 倫理学 / 臨床倫理学 / 解釈学 / ロマン主義 |
研究実績の概要 |
オランダは1980年代半ば以降、臨床倫理学の方法の流派をいくつも生み出してきたが、この中に解釈学的アプローチが含まれ、その命脈は現在なお保たれている。これは世界的にみて特異的なことである。本邦に臨床倫理学が輸入されて四半世紀が経つが、解釈学的アプローチは殆ど顧慮されてこなかった。 昨年度はダルテル&モレヴァイク『よいケアについての対話を続ける』所収のリーケ・ヴァン・デア・スヘーアの概説を足掛かりに、ナイメーヘン大学式の解釈学的アプローチを分析し、これと私自身の方式との比較考量を行ったが、当年度はスヘーアへのインタビューを重ね、さらにスヘーアその人のファシリテーションの下で臨床ケースを用いて解釈学的アプローチを行う機会を得た。これによって、文献に大きく依っていたことに起因する誤解を修正することができた。 それにしても何故オランダにおいて解釈学的アプローチが興ったのか。神学者にしてニーチェ研究にも功績のあるパウル・トンヘレンの影響が考えられる。トンヘレンによれば倫理学とは「経験の解釈学」である。実生活上の出来事の、不十分にしか捉えられていない意味を明確にすることで経験が成立する。経験を言葉化し検討の対象として、支配的な見方や広く認められた経験との対話の内にもたらし、道徳的生の理論を構築すること、かくして可能的な道徳的経験の構造や前提、そして理解する者としてのわれわれの実存の道徳的性格を明らかにすることが、解釈学的倫理学の課題であるとトンヘレンは考える。注目すべきは、トンヘレンその人が、特殊領域における具体的問題の解法を提供しようとする応用倫理学の形態を「倫理的エンジニアリング」と呼んで、これとは一定の距離をとろうとしている一方で、解釈学的アプローチの構築に参画した点である。解釈学的倫理学と、臨床倫理学における解釈学的アプローチとの関係性についてさらに検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オランダ・ナイメーヘン(ラドバウド)大学方式の解釈学的アプローチについて、理論と実践の両面から批判的検討を重ねて、論文にまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
オランダの解釈学的アプローチの思想的基盤と考えられるバウル・トンヘレンの解釈学的倫理学の構想と、同アプローチの関連性について、トンヘレンその人との対話を通して、明らかにする。またロマン主義的解釈学についての文献を読み進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2017年9月にEACME(European Association of Centres of Medical Ethics)に出席して研究発表を行う予定であったが、指定トピックから臨床倫理学が外されたため、参加を取りやめたことによる。今年度アムステルダムで開催される年次大会には演題を申し込んである。
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