研究課題/領域番号 |
16K02107
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
服部 健司 群馬大学, 大学院医学系研究科, 教授 (90312884)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 倫理学 / 臨床倫理学 / 解釈学 / ロマン主義 |
研究実績の概要 |
シュライアマハーの解釈学の功績のひとつとして、解釈の対象をそれまでの文書テクスト一辺倒から口語テクストへと広げたことがあげられる。また、客観的文法的解釈にくわえて、主観的な心理的・技術的解釈、その際に直感的察知能力に光を当てたことの意義は大きい。 現代の臨床倫理学、とりわけ独自な発展を続けているオランダの同時代的な臨床倫理学に目を向けてみると、かかるシュライアマハー解釈を受け継ぐ流れがあることが気づかれる。その顕著な例が、CURAである。CURAは「没入・先送り・反省・行動」の各ステップを表すオランダ語の頭字語である。とりわけ緩和ケア施設で働く看護者のバーンアウトを防ぐ目的で開発された。この方法で特筆すべきことは、困難な状況に直面している看護者の感情や身体的反応に注意を向けて理解する工程を含み、臨床現場でのなやましい道徳的問題や、ディストレスを解決するためには抽象的な倫理学的命題の検討や合理的な推論にとどまるべきではないことを示している点である。そのような流れは、臨床倫理学およびその教育を新たな段階に導くように思われる。 従来の臨床倫理学は、物語として表現された個々のケースを読み込み、理解を深めることをもって開始される。一般的かつ抽象的に定式化された問いから始める生命倫理学や医療倫理学との相違点は、この物語性の比重の大きさにある。しかし従来の臨床倫理学で扱われる物語、ならびに物語を元にすすめられる討議では単純化矮小化されたり切り捨てられたりする要素が多くあったといわなければならない。これらの要素を、一部であれ、回復させることをねらったのがCURAである。とはいえ、CURAも言葉によってのみ推敲されるわけであるから、回復には限度がある。それゆえ、非言語的表現、とりわけ身体表現をも解釈の対象とする新しい解釈学的臨床倫理学を構築していく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新規開講授業科目の企画・運営に想定以上の時間と労力を取られているため。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍にあって開催が延期されていた欧州の関連2学会が今年度は開催される。これに合わせて研究を進め、成果を発表する予定であり、演題発表申し込みは完了している。1つは口演で採択の通知あり。他方は採否の結果待ちである。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際会議の開催がコロナ禍を理由に延期されたため。
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