本研究では、世界的にみてきわめて独創的なオランダの臨床倫理学の全貌、開発の歴史的・社会的背景、思想的基盤、多様な諸流派の特性、動向、その中でも異彩を放つ解釈学的アプローチの位置を明らかにした。オランダの臨床倫理学が目指すのは、訴訟回避ではなく、当のケースのよりよい理解、担当する医療スタッフ間の深い相互理解であった。その基盤には初期ロマン主義的解釈学が課題とした問題意識がある。よりよい理解をめぐるシュレーゲルとシュライアマハーの著作ならびに二次文献を通して、近代の解釈学が現代の臨床倫理学に投げかける問題提起と示唆の奥行きを示した。
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