最終年度(2020年度)は、17世紀スコラからライプニッツに至るまでの抽象概念の受容と変容について研究した。 2019年度より継続してきた「抽象と概念形成の哲学史」研究会の成果を問うべく、日本哲学会・哲学オンラインセミナー共催のワークショップ「抽象と概念形成の哲学史──古代から現代へ」をオーガナイズし、これを連続講演として実施した。そして同研究会のこれまでの成果として『抽象の理論をめぐる哲学史──古代から近代まで──』を研究報告論集として出版した。 自身の研究成果としては、まず、バロック期の科学方法論および自然哲学というより広い観点から、「ポスト・デカルトの科学論と方法論」について整理する機会を得て、これを出版した。これは、初期近代における「抽象の問題」を、中世スコラのアリストテレス主義との連続性および非連続性の観点から考察する上でも本課題と大きく関連し、17世紀当時の抽象をめぐる哲学思想というコンテキストを解明する研究へと導くものとなった。 その研究成果の一つとして、「17世紀スコラ哲学における抽象の概念」について論文をまとめ、また学会でも発表した。本稿では、スコラにおける抽象の多義性と近世におけるその単純化・通俗化という非連続性と、「精神の抽象」という規定の連続性を確認することができた。 また、これに継続する成果として、デカルトの抽象理論を体系的に整理し、さらにその前後の文脈と比較考察した論文、「デカルトの抽象理論:近世スコラ哲学およびデカルト派の論理学との比較を通じて」を執筆した。そこでは、スコラの抽象の概念を解体し、それまで抽象の概念に組み込まれていた「排除」を実在的区別を導く精神の操作として識別したところにデカルトの独自性を確認するとともに、デカルト派論理学において抽象がもつ学問への積極的側面が再び評価され、スコラの抽象理論とデカルト哲学の折衷をそこに見出すことができた。
|