研究課題/領域番号 |
16K02114
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
堂囿 俊彦 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (90396705)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 人間の尊厳 / 福祉 / ケア / 討議倫理 |
研究実績の概要 |
平成28年度の実績は、以下の四点である。 第一に、ドイツ基本法における、人間の尊厳と討議の関わりに関して、哲学・倫理学、法律学などの領域において、文献学的な調査を行った。とりわけ力を入れたのは、ドイツにおける議論のレビューである。人間の尊厳を、討議の枠組みを成立させる土台、討議を通じて合意される原則、討議を活性化するものなどとする立場を比較検討し、最終的に、個別の討議を通じて捉えられるものとする立場の可能性が示された。これらの調査・検討内容は、平成29年度に学会において発表し、さらに論文の形にまとめる予定である。(成果の一部は、すでに論文の形で公表した。) 第二に、人間の尊厳と福祉の関係を検討した。憲法上、「人間の尊厳」は国民の最低限の「福祉」を保証する根拠とされており、福祉概念を検討することにより、憲法において「人間の尊厳」が果たす役割を明らかにできると考えられたからである。具体的には、マーサ・ヌスバウムとエヴァ・フェダー・キテイの議論を比較検討することを通じて、尊厳や福祉を積極的に規定することの危うさとともに、個別的なケアを通じた判断の重要性が確認された。この研究成果はすでに学会において発表され、現在学会誌に投稿中である。 第三に、編者の一人として、『ケースで学ぶ 認知症ケアの倫理と法』を刊行した。この著作では、実際の現場において認知症の人をいかに尊重すればよいのかに関して、具体的なケースをもとに解説した。尊厳を尊重する上でケースバイケースでの対応が重要であるという上記の研究成果を、ケースブックという形で具体的に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画において、初年度予定していたもののうち、憲法学、民法、法哲学などの領域における討議の意義に関する先行研究のレビューについて、まだ着手できていない。これは、ドイツ基本法の文脈における、「人間の尊厳」と「討議」に関するレビューに予想以上の時間がかかったためである。平成29年度は、法学領域における討議の位置づけについて、まずはレビューを実施する。 その他の点に関しては、おおむね順調もしくはそれ以上の進展があった。「人間の尊厳」と「福祉」概念の関わりを検討する中で、ケアの重要性が新たに確認された。人間の尊厳とケアの密接な関係は、看護の領域でしばしば指摘されてきたが、十分に説明されてきたとは言えない。本研究を通じて、人間の尊厳と討議の関係だけではなく、ケアとのつながりについても明確にできる可能性がでてきた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、ドイツにおける現地調査および国内学会における研究成果の発表を行う。具体的には、以下の内容を予定している。 ドイツにおける現地調査では、ボンにある生命倫理に関するリファレンスセンター(Deutsches Referenzzentrum fuer Ethik in den Biowissenschaften) を訪問する予定である。また、平成28年度の研究成果を踏まえ、以下の二箇所を追加する予定である。一つは、Akademie fuer Ethik in der Medizinである。この研究所は、ドイツにおける倫理コンサルタント教育の中心である。この研究所においてインタビューを実施することにより、ドイツの医療現場において「人間の尊厳」がどのように理解されているのかを調査する。もう一つは、ケアと「人間の尊厳」の関わりに関して、どのような議論がなされているのかを調査することである。具体的な訪問先は、これから検討する。 国内学会における研究成果の発表に関しては、7月の学会において、「『人間の尊厳』と『個人の尊重』」という研究発表を行う予定である。本発表は、人間の尊厳と個別的討議の密接な関わりという観点から、日本国憲法の「個人の尊重」を解釈するというものである。その後、論文としてまとめ、学会誌へ投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画していた文献レビューの作業が予定通りに進まなかったため、購入するべき図書の選定ができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に遅れているレビュー作業を実施する中で、当初計画通り、図書を購入する予定である。
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