今年度は、医療・ケアの現場における「人間の尊厳」と対話との結びつきをより明確にするべく、倫理コンサルテーションにおいて「人間の尊厳」概念がどのように理解されているのかを探求した。研究成果は、「ケアの人間学」合同研究会および日本生命倫理学会において発表した。 研究期間全体の研究成果としては、大きく以下の二点が挙げられる。 (1)本研究では、「人間の尊厳」を、個性をもった人々を尊重する対話や、人間の多様な側面に関わるケアを通じて明らかになるものとして位置付けた。これにより、従来対立的に捉えられてきた「人間の尊厳」と「個性の尊重」を統一的・補完的に捉えるための枠組みを提示した。現在、医療・介護・研究に関するさまざまな法律やガイドラインにおいて「人間の尊厳」という表現が用いられているが、本研究により、これらの法律やガイドラインが憲法と密接に結びつくものであることが示された。 (2)「人間の尊厳」を捉える上で、人々による対話やケアを重視する本研究の成果は、医療・介護・研究に関するさまざまな法律やガイドラインの柱となっている「人間の尊厳」の尊重を、実践の場面に根付かせるための道筋を示すものである。本研究では、「人間の尊厳」を具体化する一つの枠組みとして倫理コンサルテーションに着目し、日独の比較研究を行った。また、この研究成果を生かしつつ、医療やケアの現場において倫理コンサルテーションに従事する方や医療と法に造詣の深い弁護士の方ともに、『倫理コンサルテーションハンドブック』を出版した。本書は日本で初めての本格的な倫理コンサルテーションの教科書である。
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