研究課題/領域番号 |
16K02116
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
金山 弥平 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (00192542)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 探求 / 記憶 / 仮設法 / 魂 / ソクラテス / プラトン / 知識 / 感覚 |
研究実績の概要 |
ギリシア古代哲学におけるskepsis(考察)と関連して、とくにプラトン対話篇の『パイドン』、『国家』、『パイドロス』、『テアイテトス』、『ピレボス』、『ティマイオス』を取り上げ、プラトンの探求を見直した。その成果の一つが、2018年(近刊)のM.D. Boeri, J. Mittelmannとの共編著、Soul and Mind in Greek Thoughtと、同書所収の単著論文Plato's Wax Tabletである。同論文は、プラトンの探求概念の広い枠組みのなかで『テアイテトス』における魂の蝋塊モデル、鳥小屋モデル、第2部の虚偽不可能のパラドクス、第3部の知識定義、さらには『ピレボス』における分割法、魂の書記・画家モデルについて、新解釈を示すものである。 また『テアイテトス』第1部の知識=感覚説批判を取り上げて論じたOxford Studies in Ancient Philosophyの拙論(1987)を書き直し、この間の約30年の諸研究を踏まえた新たな議論展開の作業を進めた。さらにそれと並行し、『パイドン』の仮設法、魂の不死論証を論じた同じくOxford Studies in Ancient Philosophyの拙論(2000)についても、その後の学界、および私自身の研究の進展を踏まえて書き直し作業を進め、仮設法、および魂の不死論証について、新知見を盛り込んだ論文を執筆しつつある。この成果は2018年度の本研究において発表したいと考えている。 『国家』については、線分の比喩と洞窟の比喩の対応関係の研究を進めてきたが、これについてはイデア認識を視覚認識に喩えて捉える見方をどの程度まで文字通りのこととして見るべきかという観点から考察を行い、2017年度の研究を通して解決の糸口を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究実績の概要】で述べたように共編著Soul and Mind in Greek Thoughtと、同書所収の単著論文Plato's Wax Tabletの出版に至ったことは大きな成果である。とくに本論文は、プラトン後期対話篇の多くの難問について新解釈を幾つも提示するものであり、学界に与えるインパクトは大きいであろう。 また『テアイテトス』におけるプラトン感覚論を扱った1987年の論文、『パイドン』における仮設法、魂の不死論証を扱った2000年の論文(いずれもOxford Studies in Ancient Philosophy)は、その後、世界中の学者たちによって取り上げられてきたが、彼らが行った諸議論を踏まえて推進している現在の研究もまた、そこには新たな見地が盛り込まれており、その発表は意義あるものとなることが期待される。 さらにまた、プラトン『国家』のイデア認識についても、これから研究を進めていくための方向性を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
差し迫ったところでは、7月に北京で開催されるA Symposium: Comparing Virtues, Roles, Duties in Early China and Graeco-Roman Antiquityにおいて、Socrates as the Role Model for All Human Beings: Cultivation of Reason and Friendshipと題して発表を行う予定である。 それと並行して『テアイテトス』感覚論、『パイドン』仮設法、魂の不死論証、『国家』の線分の比喩、洞窟の比喩を扱った各論文(計5編)を完成させる。 最終的にはこれらの諸論文、さらにはこれまでに執筆したプラトンの探求に関わる諸論文をまとめて、著書 Plato on the Road of Inquiryを完成させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部は、たまたまの巡りあわせ、また一部は、論文執筆に専念したこともあり、海外での発表の機会がなく、そのために次年度使用額が増えることになった。 本研究は、後2年を残すところとなり、研究の成果発表の段階に入っている。次年度使用額として生じた未使用金は、主としてこの研究成果発表のために用いられる。すなわち、一方では、海外での口頭による研究発表、また他方では、印刷物による研究成果発表のために用いられることになる。 また最終的に研究をまとめ上げるための資料収集にも用いられる。
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