研究課題/領域番号 |
16K02116
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
金山 弥平 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (00192542)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 探求 / 記憶 / 懐疑 / 考察 / ソクラテス / プラトン |
研究実績の概要 |
本研究課題と関連する実績として特筆に値するのは、2018年7月に中国北京において行った一連の発表である。すなわち、2日には中国人民大学で(1)「プラトンが想起で意味したもの」の発表、3日には北京大学で(2)“Plato’s Wax Tablet”の発表、そして5日には中国人民大学でのシンポジウム(Comparing Virtues, Roles, Duties in early China and Graeco-Roman antiquity)で、(3)“Socrates' Humaneness: What his Last Words Meant”の発表を行った。 (1)は、プラトン想起を、理論としてよりむしろ探求・考察(skepsis)を促すメタファーとして見るものである。(2)は、プラトンはしばしば文字批判を行ったとみなされるが、批判と見られるものの真の意義は、文字を考察のために用いようとしない姿勢を戒める点にあることを示した。その成果はSpringerから出版された書物の1章として公刊された。また(3)の成果は、国際的な学術雑誌であるFrontiers of Philosophy in Chinaの掲載論文として4月に公刊された。これは、ソクラテスを理性を重視するあまり人間性を欠いた人間とみなす欧米の諸解釈を批判し、ソクラテスの探求と考察は、人間同士の愛に立脚するものであることを示しており、その点で孔子の説く「仁」の思想と通じるところがあることを論じている。 またギリシア思想と中国思想の比較の観点から、両者の探求観・懐疑観の比較研究を行った。その成果は、Bloomsburyから出版された書物の1章の形で公刊されている。 さらに記憶術との関連で、考察における右方向の運動と左方向の運動の違いについて論じた論文を国際的学術雑誌に投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最終的目標は、プラトンの探求・考察を主題とした研究書の完成であるが、そこにはまだ至らないという現状を考えるとき、(1)当初の計画以上の進展とは言うことはできない。しかしながら、研究書完成に至りえない主たる原因は、本研究の過程で、次々にプラトンの探求・考察と密接に関係する新たな主題が見出され、新たな構想が浮かんできていることにある。その意味で研究は非常に順調にかつ着実に進展している。 新たな構想の例を挙げると、ソクラテスに現れたダイモニオンの合図に関する新解釈、プラトン『プロタゴラス』でソクラテスが詭弁とも思われる議論を行う理由、プラトン対話篇の対話設定年代が、ソクラテスの刑死と、プラトン哲学の発展に対してもつ意義、等である。これらのいずれについてもすでに新解釈の可能性が視野に入っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向として、次のテーマの論文執筆を考えている。 (1)ソクラテスのダイモニオン、(2)『プロタゴラス』におけるソフィスト的議論への対処、(3)友人と共に行う探求の意義、(4)探求を促すものとしてのイデア論、(5)ギリシア医学における探求方法としての仮設法、(6)哲学や数学といった理論的考察において機械的道具が果たす役割。 これらの主題について考えてきていることをできるだけ早くまとめ、研究書の完成に向けて進みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に基づく海外発表を中国で行なったが、招待講演、招待発表であったため、先方負担となり、本科学研究費を用いる必要はなかった。2019年度には、ノルウェー、オスロ大学、ルーマニア、University "Alexandru Ioan Cuza"、イギリス、オックスフォード大学等の学者から、訪問発表を誘われており、海外で、研究成果を発表するために助成金を主として使用する計画である。
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