最終年度はプラトン『ティマイオス』に集中した。これはプラトン対話篇の中でも唯一自然哲学を扱った著作であるが、本著作の翻訳と註釈、及び解説執筆を通してプラトンの経験主義的側面を明らかにした。 プラトンと言えば、我々は、そのイデア論ゆえに合理主義哲学の側面を強調しがちであるが、『パイドン』で存在と生成消滅の原因とされた善原因探求の行きつく先は『ティマイオス』に示されている説明なのである。『ティマイオス』はこの問題を、宇宙論・政治論・魂論・身体論全般にわたって扱うプラトン哲学の集大成と言える。 またこれと並行して『ティマイオス』身体論中で展開される色彩論について論文(Plato on Colours in the Timaeus)を執筆したが、最終段階の本論文は、間もなくチリの研究仲間に送られ、スペイン語に翻訳されて『ティマイオス』に関する論文集に掲載される予定である。 本研究の最終目標は、英語による出版を計画しているプラトンの探求に関する著作公刊にあった(予定タイトルは、Plato on the Road of Enquiry)。研究期間全体を通して、数々の論文を執筆したが、そこにはソクラテスの最後の言葉を扱い、彼の探求精神がプラトンにどのように受け継がれたかを示すもの、プラトンの探求(スケプシス)の懐疑主義(スケプシス)的側面を扱ったもの、文字の発明がプラトンの探求にとってもった大きな意味を扱ったもの等々があるが、それらはすべてこの著作に掲載される予定である。 また、かつてOxford Studies in Ancient Philosophyに掲載した『パイドン』の方法論に関する論文、『テアイテトス』の感覚論に関する論文も同著作には含まれるが、上記色彩論の論文は、感覚論の論文を補完し、プラトンの探求が、全体としてプロタゴラス的相対主義との対決であったことをも示すものである。
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