研究課題/領域番号 |
16K02117
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
秋元 ひろと 三重大学, 教育学部, 教授 (80242923)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スアレス / デカルト / スコラ学 / 因果論 |
研究実績の概要 |
本研究は,中世以来のスコラ学の伝統,とくにその因果論に着目して,それとの関係という観点からイギリス経験論を再検討することによって,イギリス経験論の歴史をロック,バークリ,ヒュームというトリオの仕事と見なす標準的解釈に代わる哲学史記述の可能性を明らかにすることを目的とする。 研究2年目である29年度は,近世スコラを代表するスアレスが著書『形而上学討論集』で展開する因果論を踏まえて,中世以来のスコラの因果論の伝統との関係という観点から見たとき,近世哲学の父とも称されるデカルトが『哲学原理』で展開する自然学,とりわけその因果論がどのような位置に立つものであるかを明らかにする作業を中心に研究を進めた。その結果,つぎのような知見を得た。 中世以来の因果論には,機会因論,協働論,保存論の三類型がある。これらは,神と被造物の作用因としての働きをどのように捉えるかの違いに基づくが,デカルトの因果論については,それを三類型のいずれと解釈すべきかに関して論争がある。スコラのアリストテレス主義者は,普遍的な第一原因としての神と,特殊的な第二原因としての被造物を区別した。これに対してデカルトは,普遍的な第一原因については,それを神とするスコラの伝統を踏襲する一方で,特殊的な第二原因については,それを被造物ではなく法則として,それを神と被造物の中間に位置づけた。これは,デカルトが協働論ないし保存論の要素を保持しつつも機会因論に傾くという,彼の微妙な立ち位置を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スアレスが『形而上学討論集』で展開する因果論の読解作業という前年度積み残した作業を完了した上で,デカルトの因果論の特徴をスコラの因果論と対比して明らかにするという今年度の計画を達成することができた。 あわせて次年度の研究の準備作業として,バークリおよびマルブランシュの因果論についても基本的テクストの読解作業を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
バークリについては『人知原理論』『ハイラスとフィロナスの三対話』『運動論』を,マルブランシュについては『真理探究論』『解明』『形而上学と宗教に関する討論集』を基本テクストとして,前年度から開始しているそれらの読解作業を継続して,バークリとマルブランシュの因果論の比較検討の作業を行うとともに,3年間の研究成果が,イギリス経験論の標準的な哲学史記述の見直しに如何なる可能性を開くものであるかについても検討する。
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