今回の研究は、常識哲学と認識論の可謬主義がどのように展開してきたのかを、歴史的に明らかにすることを目的とした。 歴史的な解明を目指したために、基本的な研究の中心は、近代を軸に行った。28年度は、リードとロックの哲学を比較検討しつつ、その知覚表象説によって懐疑主義に陥ると批判されたロックの立場と懐疑主義を常識的原理に訴えることによって克服しようとするリードの立場には、大きな類似性があることを確認し、それをデカルトのような立場との違いを鮮明なものにした。29年度においても、リードの認識論的構造をさらに詳細に検討しつつ、その常識的原理の位置付けを28年度よりもさらに詳細に検討し、20世紀を代表する可謬主義者であるカール・ポパーの立場と比較し、その性格の異同などについて考察した。ポパー自身、リードに対する敬意を表明しており、20世紀後半になるまであまり顧みられなかったとしばしばいわれることのあるリード哲学、そしてその常識哲学・可謬主義の現代への影響を垣間見ることができる。30年度は、リードとリードに大きな影響を与えたバークリの、哲学における常識の位置付けを対比し、それぞれの可能性について検討した。 前年度までの研究をさらに詳細に再検討し、発展させることを目指し、20世紀のカール・ポパーや古典的プラグマティストであるパースにおける常識および実在の関係について考察を深めた。特に、それぞれの実在論についての議論を手がかりに、われわれの世界観、知識の体系に、常識がどのように関係しているのかを明らかにしようとした。そしてこの系統が、ジェイムズやネオプラグマティストのローティらへと受け継がれて、強い実在概念への解体へと結びついていることを詳細に検討した。これは現在、論文としてまとめつつあるが、コロナなどの影響もあり、完全な完成にはまだ至っていない。
|