研究課題/領域番号 |
16K02120
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
稲原 美苗 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (00645997)
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研究分担者 |
浜渦 辰二 大阪大学, 文学研究科, 教授 (70218527)
村上 旬平 大阪大学, 歯学部附属病院, 講師 (70362689)
池田 喬 明治大学, 文学部, 准教授 (70588839)
津田 英二 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (30314454)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 臨床哲学 / 障がい者支援 / フェミニスト現象学 / 慢性疼痛 / 非言語的コミュニケーション / 海外情報交換 / 身体論 |
研究実績の概要 |
平成28年度においては、所記の目標であったように障害者コミュニケーション支援をしている実践者や研究者を国内外から招き、そのあり方について考察を深めていく段階に到達した。平成29年2月にヨーテボリ市立カナベック特別支援(聾)学校(スウェーデン)でさまざまな障害とともに生きている子どもたちOriginal Playというメソッドを使った身体表現法)を教えているエマ・グラン(Emma Gran)氏を本研究の海外研究協力者として招き、Original Playの実践ワークショップ(2月19日)と学術シンポジウム(2月20日)を神戸大学で開催した。
平成29年2月19日に神戸大学大学院人間発達環境学研究科のサテライト施設「のびやかスペースあーち」で開催されたワークショップは、グラン氏がコミュニケーションに悩みを抱える子ども(4名)に、身体的な調和、動き、触れ合いを使って、「遊び」を創造できるようにするOriginal Playを実践した。当日、グラン氏の実践に対する質疑応答だけではなく、ワークショップに参加していた保護者や実践者・研究者(歯科医師、介護福祉士、音楽療法士、特別支援教育の研究者、現象学者など)との対話を交えながら、障害のある子どものコミュニケーション支援について考える機会を得た。
平成29年2月20日に国際シンポジウム「身体表現の可能性を探る―障害児・者のコミュニケーション再考」が神戸大学鶴甲第2キャンパスで開催された。このシンポジウムでは、障害児・者とともに身体表現を創り上げてきた実務者・研究者4名、上述したエマ・グラン氏、そして、大阪大学COデザインセンター准教授の本間直樹氏、舞踊家の佐久間新氏、立命館大学スポーツ健康科学部准教授の永浜明子氏)を迎えて、身体表現についての講演をしていただいた。新たな表現やコミュニケーション支援の可能性を探るきっかけになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
障害のある子どもたちとその保護者が集まり、そして障害のある子どものコミュニケーション支援をしている実践者や研究者を招聘し、支援のあり方や身体性について共同討議を行うことについては、平成29年2月中旬に開催されたワークショップと国際シンポジウムの2回だけであったが、関連研究会に出席するなどの方法によって順調に進めることができた。残念なことに、申請時に招聘することになっていた現象学的なアプローチを使って「身体表現法」を研究しているヘレナ・ダールベリ(Helena Dahlberg)氏(ヨーテボリ大学のCenter for Person-Centered Care (GPCC) 特任研究員)が本人の都合により来日できなかった。ダールベリ氏の不在では、現象学的なアプローチについては国際交流や活発な議論を行えなかったが、実践者・研究者間の情報交換や当事者家族との対話の機会を得たことは、本研究にとって非常に大きなメリットになった。
なお、平成29年2月20日の国際シンポジウムに関しては、「北欧現象学者との共同研究に基づく傷つきやすさと有限性の現象学」(科学研究費(基盤B)研究代表者・浜渦辰二、大阪大学)のプロジェクトが共催した。それに伴って、日本の現象学研究者も4名参加し、非言語的コミュニケーションにおける現象学的アプローチについて積極的に話し合えた。研究審査申請などの手続きが遅れたため、平成28年度の出版業績はほとんどない。次年度、論文を執筆する。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に、本研究の海外研究協力者であるデボラ・パットフィールド(Deborah Padfield)氏(多くの慢性疼痛患者たちとともに「痛み」を造形化し、「痛み」をアートにすることを試みてきたイギリスの写真芸術家、The Slade School of Fine Art・University College of Londonの研究者)を招聘し、数名の調査協力者を募集し、「痛み」を実際に造形化し、その分析を行う。その後、パットフィールド氏に基調講演をしていただき、日本の医療従事者(慢性疼痛患者の支援者)や当事者を招いて、国際シンポジウムを神戸大学で開催する予定である。「痛み」を表現できない患者にとって、自らの痛みを「見える化」することによって、痛みの感覚を医療従事者と共に言語化できるようになり、その過程で痛みが癒されることもあるという。なお、パッドフィールド氏他が編集をしている『The Encountering Pain』中の1章を本研究の研究代表者の稲原が担当することになっており、2018年度中にUCL Pressから刊行予定である。
これと平行して現象学的な質的研究の可能性を探り、疼痛のコミュニケーションを実践しようとする医療従事者、研究者との対話を実施していく。またそれによって、現在、疼痛を表現することが困難だと感じている当事者と医療従事者をつなげるプログラムの構築を目指し、医療現場に対話の場を作りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時に、エマ・グラン(Emma Gran)氏とともに招聘することになっていた現象学的なアプローチを使って「身体表現法」を研究しているヘレナ・ダールベリ(Helena Dahlberg)氏(ヨーテボリ大学のCenter for Person-Centered Care (GPCC) 特任研究員)が本人の都合により来日できなかった。二人分の旅費と謝金を支払う予定だったが、一人分の旅費と謝金になったことが次年度使用額が生じた大きな理由だと思われる。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度には、慢性疼痛患者の痛み(歯科医院に訪れる患者の歯痛を含む)の表現へと研究対象を移していく。イギリスの写真芸術家、The Slade School of Fine Art,University College of Londonの芸術研究者であるデボラ・パットフィールド(Deborah Padfield)氏を招聘する。数名の調査協力者を募集し、「痛み」を実際に造形化し、その分析を行う。その後、パットフィールド氏に基調講演をしていただき、日本の医療従事者(慢性疼痛患者の支援者)や当事者を招いて、国際シンポジウムを神戸大学で開催する予定である。パットフィールド氏の旅費と謝金、そして、造形を作る備品、写真現像代などが必要経費として挙げられる。さらに、シンポジウムの登壇者にも旅費や謝金を支払いたいと考えている。
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