今年度は、哲学的な研究に関しては、人間存在の空間性についての哲学的考察を、「人新世」の観点から展開を試みた。人間世界が自然と触れたところに成り立つことのリアリティを、哲学的に明確化することを試みた。文献研究だけでなく、建築家・アーバンプランナーとの共同のなかで、考察をおこなった。 その成果の一つが「人新世的状況における「人間の条件」の解体についての試論」(『現代思想』)である。哲学など人文科学では人新世学説を踏まえた転換が求められると言われているがこれに対して空間哲学の立場から試みた試論である。また、建築家、アーバンプランナー、アーティスト、キュレーター等、空間実践にかかわる人たちに示唆を与えうるものでもある。そしてティモシー・モートンの著作(Ecology without Nature)の読解および翻訳作業をおこない、翻訳出版した。空間哲学と環境思想のハイブリット的展開を試みる著書として位置づけ、申請者の研究をベースとする解説も付した。さらに、空間実践との対話研究においては、4月に「建築雑誌」の座談会を行い、建築家・アーバンプランナーとの議論をおこなった。これをうけ、アーバンプランナーの蓑原敬氏と幕張ベイタウンを訪問し、その建設思想の概要などを教えていただき、議論を深めた。また、8月には、2018年1月に出した「人新世の哲学」をベースに、建築家の能作文徳たちと合評会・建築批評会を行った。9月には建築学会でミニシンポジウムを行い、人新世と建築についての考察を踏まえた報告を行った。10月にはキュレーターの服部浩之氏の招待で「地域美学スタディ vol.8」(アセンブリッジ・ナゴヤ)でのトークイベントに登壇し、公共空間についてのレクチャーをおこない、本研究の主題である空間哲学の現時点での成果を地域アートとの関連で報告した。
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