研究課題/領域番号 |
16K02123
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
入江 幸男 大阪大学, 文学研究科, 教授 (70160075)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 心脳二元論 / 心脳一元論 / 心の一元論 / 脳の一元論 / 自由意志論 / 道徳命令の正当化 / 刑法の正当化 / 国家契約論 |
研究実績の概要 |
今年度の目標は、ドイツ観念論における心の哲学、自由意志論、道徳と法の関係、国家論、についてそれらの類型分類を行い、それらの類型の組み合わせの類型論の手がかり得ることであった。これを試みる途中で、予期せぬ成果があった。それは、ドイツ観念論と同時代の法学者であるHommelが非常に興味深い立場をとっていたことが分かったことである。フィヒテによれば、このHommelは、アクレクサンダー・フォン・ヨッホという偽名で、私たちの意志を含めてすべてのものは自然法則によって必然的に決定していると主張していた。しかし他方で、Hommelは、死刑反対論で有名なベッカリーアの『犯罪と刑罰』をドイツ語に翻訳しており、(未確認だが)おそらく死刑に反対ていたと予想される。フィヒテは、観念論の立場から、死刑に反対していた。フィヒテは、Hommelと同様に、死刑に反対しているがHommeの唯物論には強く批判していた。Hommelのこの立場は、私が構想している類型論において、重要な位置づけになる。現在のところ(あくまでも暫定的だが)次の類型論を想定している。 <心の哲学と道徳論と法論の連結体の基本的な類型論> カント型:心脳の二元論、自由意志論 道徳が法に先行する、死刑擁護、国家契約論 // フィヒテ型:心の一元論、自由意志論 法が道徳に先行する、死刑反対、国家契約論 // ヘーゲル型:心脳一元論、自由意志論、道徳と法を分けない、死刑擁護、人倫共同体論 // ホンメル型:脳一元論、決定論、道徳と法を分けない、死刑反対、国家契約論。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記に記したように、法学者Hommelの主張を知ったことで、期待した類型をおおよそ揃い、実のある類型論を構想できる見通しがついてきた。それぞれの類型を吟味し、相互に比較することで、現代における類型論の構想へとつなぐことができるだろう。第二年度に計画していた予定の研究(現代における、心の哲学と規範論の結合の類型化の探究)を進めるのと並行して、Hommelの読解を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は次の二つの課題を達成したい。 (課題1)現代の心の哲学の主要な立場と自由意志論の組み合わせの類型を確認すること。ます、現代の心の哲学について、最新の研究を調査するともに、とりわけチャーチランドの消去主義、デイヴィドソンの非法則的一元論、チャルマーズの中性的一元論について、可能性を検討する。次に、有望な心の哲学の立場について、自由意志に関してどのような立場を採用することになるのか、を検討する。自由意志については、それが存在しないことを証明したとされるLivetの有名な実験があるが、その実験結果をどう解釈するかについてはなお議論の余地があるので、これについての最新の研究を調査する。 (課題2)現代の心の哲学の主要な立場と規範論の組み合わせの類型を確認すること。ここでは<心の哲学についての有望な諸立場が、どのような道徳論、正義論と結びつく可能性を持つのか>を検討する。その際に有用なのは、ロバート・ブランダムのプラグマティックな意味論とマクダウェルの道徳実在論になるだろう。まず、<心の哲学の有望な諸立場が、言明の規範性をどのように説明することになるのか>を検討する。次に、<その言語の規範性の理解の違いが、道徳の規範性にどのように影響するのか>を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた関連図書の購入リストの作成が間に合わずに、次年度に伸ばしたこと、予定してた海外出張に他の予算を当てることが出来たために、旅費が安くなったことが大きな理由で、経費を次年度の回すことになった。、
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次年度使用額の使用計画 |
今年度、昨年度によっていしていた図書の購入を含めて、図書購入費が多くなること、 海外研究者を招いて研究会を予定しているので、その費用が当初の計画よりは増えるが、 昨年度の旅費の削減分をこれに当てる予定である。
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