研究課題/領域番号 |
16K02123
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
入江 幸男 大阪大学, 文学研究科, 教授 (70160075)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 心の哲学 / ドイツ観念論 / 意思の自由 / 道徳的責任 / 法的責任 / 超越論的論証 / 問答論理 / 推論主義 |
研究実績の概要 |
昨年度(最終年度の予定であった)の課題は、五つあったが、そのうちの課題(1)は初年度におおよそ解決できてきていた。課題(2)は、取り組めなかった。課題(3)は二つの課題(a)と(b)からなっていた。(a)<心の消去主義を前提するときに、道徳や法の規範性がどうなるのか>については次のことを明らかにした。<心の消去主義を前提するとき、内面に関わる道徳は成り立たなくなるが、行為に関わる法の規範性は、成り立つ>という主張は、<道徳は、内面の規範であり、法は行為の規範である>という理解に基づいている。しかし道徳と法を次のように理解することも可能である。<道徳は、個人の同一性のための規範であり、法は共同体や集団の同一性のための規範である>。このように考えるならば、心の消去主義を前提しても、個人という行為主体を認める限り、その同一性のための規範は必要であり、成立する。る。(b)<道徳の超越論的論証は、心の哲学のどのような立場と両立可能なのか>については、を検討する必要がある。これについてはアリソンの『カントの自由論』を参考に考察を進めたが、いまだ明確な結論には至っていない。課題(4)は個人の存在を前提した国家契約説とは異なる仕方での国家の説明を検討することであった。つまり行為主体を前提せずむしろ行為主体と、行為の規範性が、言語共同体の中で成立するメカニズムを説明することが課題であったが、これの解決の端緒をグライスの「協調の原理」に見いだすことができた。この原理が打倒するのは、約束によるのではなく、協調の原理が妥当しているという予期を共有することによって成立する。このメカニズムを、契約論とは異なる国家の説明原理とすることができるだろう。課題(5)は、最終的な総括なので、積み残しとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、昨年度(三年目)で計画を完了する予定であったが、全体のとりまとめに、予想以上に時間がかかったこと、チェックすべき文献等の追加、などのために、今年度に持ち越すことになった。 予算については、ソウルのソガン大学での講演と北京の世界哲学会での発表は予定通り行ったが、ソウルでの発表の渡航費と滞在費は、ソガン大学から提供されたので、科研費は使用しなかった。また、研究成果を本にまとめて、それを英訳するためのネイティヴチェックの費用の計上を予定していたが、本にとりまとめることが間に合わなかったので、英文のためのネイティヴチェック費用も残すことになった(これは、今年度に計上予定である)。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、昨年度達成できなかった残りの課題に取り組む。 それは、昨年度の課題(2)[現代のメタ倫理学における道徳的言明の捉え方の区別を、ドイツ観念論に適用し、それらをどのように分類することになるのか、あるいは<メタ倫理学の分類の見直しが、必要かどうか>を検討する]である。これに関しても、道徳的言明の上流推論と下流推論に注目することによって、メタ倫理学についても新しいアプローチを考えたい。 課題(3)の(b)[フィヒテは道徳についての超越論的な論証をおこない、ヘーゲルもまた超越論的論証の一種だと解釈できるだろうが、<道徳の超越論的論証は、心の哲学のどのような立場と両立可能なのか>を検討する]である。これについては、問答論的矛盾による新しいタイプの超越論的論証を提案し、その超越論的論証が、心の哲学に関してどのような立場をとることになるのかを考察する。 以上を踏まえて、課題(5)[<心の哲学と道徳論と法論の連結体の基本的な類型論>を提案する]に取り組む。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ソウルのソガン大学での講演と北京の世界哲学会での発表は予定通り行ったが、ソウルでの発表の渡航費と滞在費は、ソガン大学から提供されたので、科研費は使用しなかった。 また、研究成果を本にまとめて、それを英訳するためのネイティヴチェックの費用の計上を予定していたが、本にとりまとめることが間に合わなかったので、英文のためのネイティヴチェック費用も残すことになった(これは、今年度に計上予定である)。
|