2019度は、当初の計画を延長した4年目であり、2018年度に達成できなかった残りの課題に取り組んだ。 残りの課題の一つは、[ドイツ観念論から見て、現代のメタ倫理学の分類の見直しが、必要かどうかを検討する]ということであった。メタ倫理学は、主として認識可能性の観点から倫理の立場を区別する。この分類によると、ドイツ観念論の道徳論はすべて、「認知主義かつ非自然主義」(ムーアやマクダウェル)という立場に分類されることになる。そのためにドイツ観念論における様々な道徳論の間の差異を明示化するには別の観点「道徳と法の関係」を持ち込むことが必要になる。カントは道徳性と適法性を区別し、フィヒテは道徳意識を自己意識の成立の前提とし、法を自己意識間の関係として捉え、ヘーゲルは道徳と法を人倫性の構成契機として捉えた。他方で、現代の英米の哲学には、道徳と法の関係についてのこうした考察が欠けていることに気づかされる。本プログラムの最終課題<心の哲学と道徳論と法論の連結体の基本的な類型論>の提案のためには、分析哲学の立場からの道徳と法の関係の考察が必要であることが分かった。 残りの課題のもう一つは、[道徳の超越論的論証は、心の哲学のどのような立場と両立可能なのか]ということであった。これについては、問答論的矛盾による新しいタイプの超越論的論証を提案し、この超越論的論証が、心の哲学に関してどのような立場をとることになるのかを考察する。問答が可能になるための超越論的な道徳的条件として、「嘘の禁止」デイヴィドソンの「好意の原則」を正当化できる。仮に心の消去主義をさいようするとしても、私たちがコミュニケーションできていることは認めるだろう。コミュニケーションができているとすれば、そこに問答が成立しており、問答が成立するための超越論的条件として、道徳規範の正当化を試みた。
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