研究課題/領域番号 |
16K02126
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
大西 克智 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (60733996)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | モンテーニュ / 『エセー』 / デカルト / 『情念論』 / 自知 / 意志 / 感情 |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究を通して、「意志と自由の系譜学」を構築する上で、16世紀後半フランスの思想家モンテーニュの『エセー』を精査する必要のあることが明らかになった。28年度、この点に関する論文を上梓したが、29年度はこの論文を拡張し、モンテーニュに関する単著を完成させるべく尽力した。モンテーニュを十分に論ずるためには、一方で宗教改革からパウロ、場合によってはイエスまで遡り、他方でソクラテスに遡る、二重の遡行作業が必要であり、これは個別論文の容量を遥かに越えているためである。簡潔に言えば、信仰と知の問題と自由意志の問題は切り離し難いということである。この点まで視野に含めた現時点での研究成果の一部を、NPO法人日本論文教育センター主催の講演会(平成30年5月12日)で発表する予定である。 29年度はまた、デカルト『情念論』を包括的に論ずるための準備にも多くの時間を費やし、その成果を東洋大学における招待講演のかたちで発表した(2月17日)。デカルト的道徳についてはフランスでの研究も少なくないが、いずれも、断片的なものにとどまっている憾みはぬぐい難い。引き続き、上記発表を土台として、一つの明確なデカルト道徳論を仕上げるべく努力する所存である。 なおまた、共著『哲学すること ー 松永澄夫への異議と答弁』に寄稿した論考は、意志と自由の系譜学を最終的に現代社会の諸問題(就中精神疾患の問題)へと接続することを意図して執筆したものであることも加えたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度から29年度、そして30年度にかけて行なっているモンテーニュを中心とした研究は、意志と自由の系譜学構築という当初計画の土壌となるものであり、その視野をしかるべく拡大するものである。「研究実績の概要」に記した通り、モンテーニュ研究は、意志と自由をめぐる形而上学を宗教ないし信仰の問題に、そしてギリシャ哲学の本丸であるソクラテスとプラトンに、接続することを可能にするものだからである。 他方で、デカルトの『情念論』について体系的に論ずる用意が整いつつあり、これが、上記系譜学の出発点になるであろう。 以上から、いわゆる形而上学領域の自由意志論を通史的に検討する作業はペンディング状態にあるものの、広い視野で綜合的に見れば、研究は「おおむね順調に進展している」と認識している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度前半は、引き続き、モンテーニュを論ずる単著((仮題)『モンテーニュ ー 魂の軌跡』)の完成に注力する。後半は、デカルト『情念論』に関して今冬した発表を、単独ないし複数の論考のかたちにまとめて公表することを目指したい。同時に、自著『意志と自由 ー 一つの系譜学』(知泉書館、2014年)のフランス語版作成にも着手する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
「進捗状況」の項目に記した通りの変更が計画に生じ、フランスへ渡航しての調査およびフランス語単著のネイティヴチェックに予定していた人件費が発生しなかったため、支出が予定額を下回った主な理由である。上記はいずれも来年度ないし再来年度に必要になるので、残額はその際に使用する予定である。
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