2016年度に着手した本基盤研究(C)「意志と自由の系譜学 I」の最終年度は、ミシェル・ド・モンテーニュ(1533-1592)の『エセー』を徹底的分析する作業の完遂に当てた。その成果は、大きく三つの領域に渡る。 第一に、内容上の一貫性とは無縁な著作と考えられてきた『エセー』を、ギリシャ文明圏とキリスト教文化圏を貫く一本の筋が貫いていることを明らかにしたこと。とりわけ、ソクラテスに遡る哲学の歴史と、宗教改革を経てふたつの流れとなったキリスト教神学の歴史の交錯する地点にモンテーニュが立っていることを、明らかにできたこと。 第二に、モンテーニュの精神の基底で働く意志、意図、意識の関係を明らかにすることで、当初の計画とは異なる仕方ではあるが、「意志と自由の系譜学 I」に一つの区切りをつけるに至ったこと。 そして、第三に、今回の系譜学構想を、新たに開始する基盤研究(C)「「意識」概念の形成をめぐる系譜学的研究」として補完し、発展させる起点を確保するにいたったこと。 なお、これらの成果は次の四点の著作ないし論文のなかで公表される。(1) 【単著】 『『エセー』読解入門―モンテーニュと西欧の精神史』(講談社学術文庫、2021年7月)。(2)【共著】 『世界哲学史―中世III バロックの哲学』(山内・納富他編、筑摩新書、151-181頁、2020年)、第5章「中世における神学と哲学」。(3)【論文】 「良心の呵責と自己意識」(松永・鈴木他編、『ひとおもい―哲学を創造する年間誌』 2号、69-91頁、2020年)。(4)【論文】 「conscientiaの系譜―「自己意識」と「良心」をめぐる」(九州大学哲学会編、『哲学論文集』 56輯、57-76頁、2020年)。
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