本「研究の目的」は、これまでの討議倫理学研究に基づいて、討議倫理学の総合的(すなわち、根拠付け問題と適用問題に関する)研究を完成させるために、討議倫理学の道徳原理である「普遍化原理」を(目的1)現実的な討議倫理学のために新たに定式化し、(目的2)根拠付ける、という残された課題を解決すること、である。 これらの目的のために、「研究実施計画」に従って昨年度までは、研究の進め方は逆になったが、主に(目的2)に関して研究を進め、(目的2)は達成した。 そこで、最終年度である今年度(平成30年度)は、(目的1)を達成するために新たな道徳原理の定式化について考察した。その結果、公共的討議を行うことができない現実の問題状況を、従来の討議倫理学の道徳原理では解決できず、新たに定式化した「普遍化原理」(道徳原理)によって解決できる、ということを明らかにした。そして、その成果を、大学紀要に発表し、開催した国際討議倫理学研究会で報告を行った。それ故、(目的1)も達成することができた。 本研究代表者は、これまで科学研究費補助金の助成に基づいて、第一に、討議倫理学の適用可能性(適用問題)(若手研究(B)2007-2010年)、第二に、道徳的「規範」の究極的根拠付け(根拠付け問題)(若手研究(B)2011-2014年)、について研究してきた。これらの研究から明らかになったことは、適用問題に関しては、「公共的討議」だけではなく、自己内対話としての「仮想的討議」が必要であり、根拠付け問題に関しては、従来の道徳的「規範」の根拠付けには問題があるが、新たなアプローチで規範を根拠付けることができる、ということであった。残された課題として、上述のように、(目的1)道徳「原理」の定式化と(目的2)根拠付けがあり、本研究ではこれらの課題を考察し、解決した。それによって、討議倫理学の総合的研究を完成させることができた。
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