研究課題/領域番号 |
16K02130
|
研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
伊原木 大祐 北九州市立大学, 基盤教育センター, 准教授 (30511654)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 宗教哲学 / 現象学 / グノーシス / キリスト教 / 出来事 / 二元論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、1960年代を境に大きく変化したと言われる独創的なフランス現象学思想の一群(エマニュエル・レヴィナス、ミシェル・アンリ、ジャン=リュック・マリオンなど)を「宗教哲学」の高度な発展形態と捉えつつ、そこに顕著に表れた二元論的構成に着目することで、20世紀フランスを中心とした哲学思想の見直しを図る点にある。 今年度はまず、レヴィナスのヴェイユ論(1952年「シモーヌ・ヴェイユ、反聖書」)とブーバーのヴェイユ批判(1951年「沈黙の問い」)との類似性・並行性を意識しつつ、その限界点からヴェイユ宗教思想の二元論的思考がもつ意義を取り出すことに努めた。この理解にとって有効と思われる参照軸として導入したのが、正統派神学によって葬り去られた古代の異端者マルキオンである。学会発表「マルキオン的二元論をめぐる所見――ブーバーとヴェイユ」では、マルキオンやグノーシス主義をめぐる両者の見解の相違が、単に宗教的信条の問題というにとどまらず、政治的次元に深く関与していることを明らかにした。 次に、論文「キリストの現象について――ミシェル・アンリとジャン=リュック・マリオン」では、アンリの現象学的二元論に基づくキリスト解釈が本人の意図にも関わらず、きわめてグノーシス的な傾向を帯びているという点、およびマリオンの現象理論がアンリ的な自己触発の議論を包括しながらも構成上の観点から決定的に断絶している点を示した。後者の構成上の鍵となる特異な概念として「出来事」の問題に注目し、その理論的な意義について論じたものが、学会発表「出来事の地位をめぐって――マリオン、ロマーノ、現象学の問い」である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、マルキオン評価との関連を軸にヴェイユ思想を見直す作業に着手することができた。また、もっぱら来年度の検討を予定していたアンリのキリスト論について、これまでの研究蓄積をもとに一定の成果を公表できたことは、意義ある進展であったと思われる。しかし、その作業の過程で、アンリから影響を受けつつ現象学の刷新を行っているマリオンの研究に取り組む必要が生じたため、マリオンのキリスト論、および彼の飽和現象論を見直す作業をあわせて実施することとなった。この限りにおいては当初の計画以上の進展があったともいえようが、逆に上記の枠組みでは、当初念頭に置いていたユダヤ思想史との連関に関する掘り下げが不十分なものとなったため、その点を差し引いて進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では、次年度よりアンリ宗教哲学の研究に取り組むとしていたが、上述のように、アンリ現象学のキリスト論を中心とした二元論的構成については公表論文の中で一定の区切りをつけることができたので、今後の研究は主として以下二つの観点から進めていきたいと考えている。 (1)以前からレヴィナス・ヴェイユ研究を通じて考察してきた問題群に対して、ブーバーをはじめとするユダヤ思想の潮流に関連づけることで、より広い視野からのアプローチを試みる。20世紀における二元論的思考の活性化をめぐっては、同時代フランスの思想家だけでなく、ドイツの思想家も考慮に入れるべきだろう。中でも、多くの点でヴェイユの宗教観と共通性が見られるエルンスト・ブロッホの思想に注目して研究を進めてゆく予定である。 (2)今年度の課題として出てきたマリオン現象学に関する研究をいっそう推進させる。近年の現象学関係の著作を中心に「与えの現象学」のもつ射程を再検討してみたい。その中で鍵となるのは、より若い世代の現象学者たちがマリオンに向けたいくつかの批判である。現時点では、「還元」や「直観」、「事実性」、「世界性」といった論点を軸として、マリオンの現象学的思考の特徴を見定めることができるのではないかと考えている。
|