研究課題/領域番号 |
16K02130
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
伊原木 大祐 北九州市立大学, 基盤教育センター, 教授 (30511654)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 二元論 / 宗教哲学 / 現象学 / ユダヤ思想 / グノーシス / 出来事 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、1960年代を境に大きく変化したと言われる独創的なフランス現象学思想の一群(エマニュエル・レヴィナス、ミシェル・アンリ、ジャン=リュック・マリオンなど)を「宗教哲学」の高度な発展形態と捉えつつ、そこに顕著に表れた二元論的構成に着目することで、20世紀フランスを中心とした哲学思想の見直しを図る点にある。 今年度は第一に、以前からレヴィナスやヴェイユの研究を通じて考察してきた問題群に対して、ブーバーをはじめとするユダヤ思想の潮流を参照することで、より広い視野からのアプローチを試みた。その成果が、日本宗教学会で他の研究者たちと共に企画・実施したパネル『二〇世紀ユダヤ哲学再考――政治と宗教のはざまで』である。この枠組みの中で実施した個人発表「エルンスト・ブロッホとユダヤ性の問い」においては、おもにショーレムやブーバーとの関連を中心としてエルンスト・ブロッホの宗教思想がもつ二元論的、あるいは異端思想的な構成を分析したが、本発表の内容を遅かれ早かれ論文に仕上げて公開したいと考えている。 次に、マリオンの「与えの現象学」とロマーノの「出来事論的解釈学」を比較した論文「出来事の現象学的地位―マリオン、ロマーノ、還元の問題」を公開した。本論文は昨年度末に行った学会発表での原稿を元にしたものである。この比較検討により「与えの現象学」のもつ特徴・意義・問題性をかなり明らかにすることができたのではないかと思われる。 第三に、次年度6月頃に公刊される予定の論文「意志の中の情感性」において、アンリのショーペンハウアー解釈を考察した。そこではショーペンハウアーによる「意志」と「表象」という世界の二元性をアンリの「現象学的二元論」に結び付けて再解釈することによって、本研究の枠組みからショーペンハウアー哲学に取り組む方途を探った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度から計画していたとおり、本年度はドイツ哲学にまで視野を拡げつつ、それとの関連で本研究のメインテーマである「20世紀フランス宗教哲学における二元論的思潮」の意義を捉え直すことに専心した。一方で、20世紀ドイツ・ユダヤ思想(ショーレム・ブロッホ・ブーバー)、他方でショーペンハウアー哲学に新たな参照項を求めることで、二元論的問題設定の根深さと潜在的な創造性が従前よりもはっきりと見えてきた。前者の参照については、日本宗教学会の学術大会で組織したパネル『二〇世紀ユダヤ哲学再考――政治と宗教のはざまで』内の発表「エルンスト・ブロッホとユダヤ性の問い」で、後者の参照については公表予定論文「意志の中の情感性」で明確にしてきたつもりである。これとは別に昨年度の課題として挙げられていたのが、マリオン現象学に関する研究の推進である。アンリから影響を受けつつ現象学の刷新を行ったマリオンの思想については、論文「出来事の現象学的地位―マリオン、ロマーノ、還元の問題」を通して、その方法論(とくに「出来事」概念と「現象学的還元」への態度に基づく)を批判的に検討しつつ、考察をいっそう掘り下げることができた。以上のことから、進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究においてアンリ現象学のキリスト論を中心とした二元論的構成を明確化したが、今年度の作業ではそこからさらに一歩進んで、(1)ドイツ哲学における同種の問題構成を探るとともに、(2)マリオン現象学の考察を「出来事」「世界」「還元」といった視点から深化させることができたため、最終年度の研究ではこの二つの新たな研究方向性を維持しつつ、前年度のアンリ研究の成果との統合を図ってゆきたい。 (1)すでに今年度末から着手しているショーペンハウアー『意志と表象としての世界』への接近において、アンリ現象学の理論構成との異同を引き続き検討し、「現象」・「欲動」・「性愛・「美」といったテーマを軸に、両者の哲学的ラディカリズムをあらためて論じ直したい。その中では両者の「宗教」観の意外な近さと、そこに残る微妙な違いとが議論されるべきだろう。(2)マリオン現象学の現象論をアンリによる現象学的二元論と比較し、どのような点でマリオンの議論が進歩を遂げているかを明らかにしたい。その範例的な共通テーマとして、「肉」と「エロス」の問題を取り上げ、比較研究を進めてゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に予定していた出張が旅費不足のため、叶わなかった。そのために一定の未使用額が生じた。次年度6月~9月にかけて研究発表・研究調査をする予定があり、それを補足する旅費としての使用を見込んでいる。
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備考 |
(翻訳と解説)エマニュエル・レヴィナス「聖書に抗するシモーヌ・ヴェイユ」、『別冊水声通信 シモーヌ・ヴェイユ』、水声社、60-69頁、2017年12月。
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