研究課題/領域番号 |
16K02134
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
矢嶋 直規 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (10298309)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヒューム / バトラー / 自然宗教 / 蓋然性 / 神の存在証明 / クラーク |
研究実績の概要 |
2017年度は、前半の8月末まで、勤務校の特別研究期間として米国プリンストン神学大学において客員研究員として研究を行った。ヒューム哲学成立史におけるジョゼフ・バトラーの影響についての新成果に基づいて、バトラーの蓋然性理論とヒュームの認識論および道徳論を比較考察し、ヒュームの蓋然性論と一般性の理論が、バトラーによるロック批判に由来することを論証した。それに引き続きヒュームの自然宗教論にたいするバトラーの影響を考察した。その際、これまでの通説に重大な変更をもたらす可能性のある発見について考察し、それを国際スコットランド哲学研究学会(IASP)主催のシンポジウムにおいて発表し、国際学術誌Journal of Scottish Philosophyに掲載することができた。ヒューム哲学の成立において、バトラーとクラークの往復書簡で論じられた空間・時間論が蓋然性の理論をもたらしたこと、またヒューム『自然宗教に関する対話』の登場人物の「クレアンテス」と「デミア」の議論が、バトラーとクラークの議論に基づいたものであることの論証に基づき、ヒューム解釈の難問である「フィロ」の見解の変化の理由を、ヒューム自身の蓋然性論と整合させる仕方で理解する新解釈を提示することができた。本論文は発表直後から同誌において閲覧数が一時期ランキング第一位になるなど注目を集めている。バトラーはリードの常識哲学にも大きな影響を与えており。バトラーの蓋然性論の解明によって、ヒュームに先立つ自然神学論争とヒュームおよびヒューム以降のスコットランド哲学の発展をつなぐ明確な共通理論が明らかにされた。 またオックスフォード大学准教授ピーター・ケイル博士を勤務校研究所に招聘しヒュームの自然主義と懐疑主義」についてのシンポジウムを開催し、コメンテーターとして議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
4年間の研究予定期間のうち、2年を経過してた時点で研究成果を2回の国際学会での招待講演を含む3回の学術講演で発表し、それらの研究を国際誌記載論文を含む論文4本を公刊することができた。とりわけ重要な課題であったヒューム哲学成立史および、その後のスコットランド哲学への発展の道筋を独自の観点から明確にすることができた。ここまでの進捗状況は当初の予定を上回っている。 また当初明確に予想していなかったヒューム宗教論と、クラーク、バトラーによる理神論批判の関連を示すことができ、今度の研究に新しい方向性を打ち出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はヒューム哲学成立史において重要な役割を果たしつつも、その意義が世界的に十分解明されていないバトラーとヒュームの関係を重点的に研究する。とりわけ、バトラーのホッブズ批判及び、自然宗教論がその後のスコットランド哲学の発展に及ぼした影響を考察する。とりわけ、18世紀スコットランド思想における哲学および神学、宗教論に共通のテーマとして人格同一性の問題に注目し、ヒューム哲学成立史および発展史を理解するための新しい視点を考察する。 またその全体の背景にかかわるスコットランド啓蒙における哲学と神学の関係を、国際連携研究者の協力を得ながら解明し、シンポジウムを開催する予定である。
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