研究課題/領域番号 |
16K02134
|
研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
矢嶋 直規 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (10298309)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | イギリス近代哲学 / デーヴィッド・ヒューム / ジョゼフ・バトラー / 道徳哲学 / 道徳感覚 / コモン・センス / 自然神学 / 宗教哲学 |
研究実績の概要 |
2018年度はイギリス経験論の本質をなす経験的道徳哲学の成立と発展に取り組んだ。発想の発端となったのは、2017年度にプリンストン神学大学で開催された国際学会「スコットランド啓蒙における自然科学」において行った講演であった。スコットランド啓蒙においてニュートン派の自然哲学が果たす役割は大きく、とりわけ論争の焦点は神の存在証明をめぐるものであった。ニュートンの自然神学を弁護したサムエル・クラークは時間空間の絶対性を主張し、それを神の存在証明のために用いている。またバトラーはクラークの影響のもとで、クラークを批判しつつ当時の無神論と理神論を論駁する神学理論を形成した。2018年度にはこれらの論点を明らかにし、隣接分野のバトラー研究者との研究会において発表した。さらにバトラーの宗教論における神と信仰の道徳論的証明が神学を離れて道徳哲学の理論へと適用され近代道徳哲学が性質した次第を、これまでほとんど注目されていたなったクラークとバトラーの初期書簡に基づいて実証した。これらの成果をまとめた論文は国際基督教大学キリスト教と文化研究所の研究紀要に掲載された。ヒューム、バトラー、リードのテキストの精査を続けたほか、とりわけ、クラークの神の存在論証、ライプニッツとの往復書簡、エドモンド・ローの自然宗教論については道徳哲学的意義を明確に論証することができた。さらにT.H.GreenのProlegomena to Ethics (1883)の翻訳作業を継続しヒューム以降の英国道徳哲学の展開をより具体的に解明した。 当該分野の海外の最新の研究書について学会誌に書評を掲載し、またイギリス経験論の歴史及び啓蒙主義に関する社会思想史事典の項目を執筆した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は近代イギリス哲学が合理主義と経験主義の両方の影響を受けながら自然と規範を統一し、一般的認識とコモン・センスに即した道徳哲学を発展させた次第の解明をめざしている。その過程で、自然宗教と啓示宗教をめぐる論争が、イギリス哲学の変容に重大な役割を果たしていることを具体的に跡付けることに成功した。2018年度も新しい研究成果について口頭発表を行い、成果を論文として完成し公刊することができた。特に、神学者バトラーの役割をイギリス哲学史の文脈で独創的な仕方で位置付けることは重要な研究成果であった。自然神学と理神論をめぐる論争が、思弁的な方法から、一般的感覚とコモン・センスに依拠する方法へとイギリス哲学の方法論的転換をもたらしたことを示しえたことは、今後の研究の発展的主題になると思われる。これらの点から、研究の進捗をおおむね順調と考える。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで、ホッブズからトマス・リードにいたるイギリス哲学の展開を合理主義と感覚主義の関係を軸に広く解明してきた。その過程で自然神学への関係がイギリス近代哲学を合理主義から感覚主義へと展開させたカギとなることを明確にすることができた。本研究課題の最終年度に当たり、2019年度は近代イギリス哲学における哲学と神学の関係に焦点を当てる。9月には中国で開催される日中哲学会議で研究発表を行う。10月には日本倫理学会において関連するワークショップを行う。またエディンバラ大学神学部長デーディッド・ファーガソン教授とプリンストン神学大学教授のゴードン・グレアム名誉教授を招聘し国際シンポジウムを開催する。その成果は研究紀要に両教授の論文とともに公刊する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2017年度には2018年度に行う予定であった海外での国際学会・シンポジウムでの発表を前倒しで行ったため、海外での研究発表を2019年度に行うこととした。今年度は二度の国際学会での発表を計画しているのでその費用に用いる予定である。さらに2019年度には、海外から二名の教授を招聘して国際シンポジウムを行うことになっている。そのための予算を確保する必要が生じた。
|