研究課題/領域番号 |
16K02135
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
荻野 弘之 上智大学, 文学部, 教授 (20177158)
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研究分担者 |
佐良土 茂樹 日本体育大学, 総合スポーツ科学研究センター, 研究員 (40711586)
辻 麻衣子 上智大学, 文学研究科, 研究員 (40780094)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アリストテレス / 倫理学 / 徳論 / ヘレニズム / 幸福 / メガロプシュキア / 幸福度の測定 |
研究実績の概要 |
研究の初年度としては当初の予定通り、ほぼ順調に推移している。 (1)アリストテレス倫理学における幸福論の再考については、雑誌『理想』696号に研究代表者(荻野)が論文を掲載したが(2016年3月)、それを発展させて『エウデモス倫理学』第8巻の叙述を精査することで、アリストテレス倫理学における包括主義対卓越主義の図式について、従来の論争とは異なる角度からの新解釈を推進した。これについては引き続き検討が必要である。 (2)これと並行して年度の後半にはエピクテトス『提要』を中心とした、ストア派の幸福論についても検討作業に着手した。シンプリキオスの註解書が刊行されたので、古代後期におけるストア派の影響に関しても、従来にない興味深い知見を得ることができた。 (3)2016年6月にスルガ銀行のセミナーから「現代人にとっての幸福論」の講演依頼があり、この機会を利用して出席者を交えた意見交換を行うことができた。これによって、単にアカデミズムの中での研究だけでなく、広く企業人や社会の幸福理解についてもサーベイが可能になったのは予想外の収穫である。 (4)2016年7月に日本アスペン研究所との連携により、日立製作所の人工知能研究者グループと意見交換する機会を持てた。人工知能開発の過程で、ウエアラブルな機器を装着してのビッグデータの収集により「幸福度を測定することが可能」と考える研究者に対して、改めて幸福概念の掘り下げが必要なことを確認することができた。 (5)分担者(佐良土)によって、コーチングの哲学の立場から幸福論への接近が可能であるか、その可能性が開拓されつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要にも記したように、研究会の実施とその記録、文献の蒐集と資料調査など、予定していた活動はほぼ順調に推移している。ただしこれらの研究成果をまとめて、出版するなど具体的な形にするにはなお時間が必要である。 また平成28年度は、オランダのファン・デン・リエク教授との研究会(2016年9月、東京大学)以外には、特に外国の研究者との目立った交流の機会はなかった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)分担者(佐良土)による「コーチングの哲学」の更なる推進が期待される。これは従来の思想史に見られるような、個人として完結する幸福論ではなく、チーム・スポーツをモデルにとった共同体型の幸福論の構想であり、方法的には特に言語行為を媒介にした相互理解による、各自の行為の意味の発見に関わっている。これは思想的系譜をたどることも可能であり、またとりわけ現代的な課題でもある。 (2)研究の途上で、アウグスティヌスの初期対話篇における「懐疑主義と幸福な生」との繋がりについて、新しい問題が浮かび上がってきた。これはやや予想外の展開なので、平成29年度以降の課題だが、前倒しして研究を進める必要を感じている。 (3)同様に、中世キリスト教思想の中での幸福論の位置づけについても、エピクテトスのストア主義との対比で、また死後の世界の表象との関係で、興味深い問題がいくつか浮かび上がってきた。 平成29年度は、これら新しく浮上したテーマをどのように調整して研究の前倒し、あるいは先送りが必要か、検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、当初予定していた海外出張を、諸般の事情で取りやめにした。ただし、その分を図書資料費でかなり埋め合わせることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、海外出張による資料調査を実施する。 あるいは研究を前倒しする中世哲学文献研究に関する図書予算を整備する予定。
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