研究課題/領域番号 |
16K02139
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
辻内 宣博 東洋大学, 文学部, 准教授 (50645893)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 後期スコラ哲学 / 認識理論 / 知性認識 / 感覚認識 / 魂論 |
研究実績の概要 |
「14世紀における認識理論の諸相」を明らかにしていくために、2016年度は2つの観点から研究を遂行した。 一方の観点は、ヨハネス・ブリダヌスの認識理論の整理を行いながら、近年出版された『自然学問題集』のテクストとの内容の異同を確認した。その結果、ブリダヌスの理論組みは、『デ・アニマ問題集』と『自然学問題集』との間で、齟齬をきたしていないことを確定した。他方の観点は、ドゥンス・スコトゥスの認識理論を通して、当時一般的に議論された「知性による個物の認識」について、その問題点とスコトゥスの解決方法を明らかにした。 後者に関しては、第246回京大中世哲学研究会において発表し、様々な角度からの質問や指摘を受けることができた。そして、基本的な想定として考えていた「知性による個物の認識理論」の一般化が、14世紀のスコトゥスから徐々に現れ始めた点については動かしえないであろうということは担保できたけれども、他方で、スコトゥス自身の解答に関しては、少し微調整を行う余地があることが判明したため、こうした点を鑑みながら、2017年度には論文の形でまとめていくことになる。 以上、2つの観点を通して、2016年度の研究は、概ね予定通りに進めることができたと考えている。なお、2017年度も引き続き、基本的なテクストの読解と二次文献の収集・調査に努めながら、14世紀半ばに活躍したニコール・オレームの認識理論の分析に着手していくことになる。その際には、2016年度の成果を踏まえながら、14世紀の認識理論の外枠を明らかにすることが必要になってくると想定されるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度の研究目的は、ヨハネス・ブリダヌスの『デ・アニマ問題集』における認識理論の構図が、『自然学問題集』という別の著作においても一貫して維持されていることを確認することと、ブリダヌスより少し前の時期に活躍したドゥンス・スコトゥスの『デ・アニマ問題集』の認識理論から、14世紀において一般に問題化されてきたテーマを抽出することの2点であった。 そのテーマは、「知性による個物の認識」をどのような仕方で説明するのかということであり、まさにその点こそが特徴的であったことが明らかになった。つまり、13世紀の認識理論においては、基本的には「知性は普遍を認識する」というテーゼが支配的であったのに対して、14世紀ではむしろ「知性が個物を認識する」という事実認定の方に強調点がおかれるようになってきたのである。 もちろん、その理由の一つには、「純粋知性である神による個物認識の理論化」という神学的な要請を見過ごすことはできないであろうが、他方で、哲学者アリストテレスのテクストを基にした『デ・アニマ問題集』においても、「人間の知性による個物認識の理論化」の要請が行われるようになってきたことに焦点を当てたのが2016年度の研究であり、その成果は、研究会においても基本的な賛同をえることができた。したがって、14世紀以降の基本的な認識理論の流れとして、哲学的側面からも、「人間の知性による個物の認知」が理論化されてきており、それは、人間の基本的な経験に基づいて導出されてくるようになってきたという点に、14世紀の認識理論の特質があるという想定が担保されたということから、本研究は概ね順調に進展していると言えるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、14世紀半ばに活躍したニコール・オレームの『デ・アニマ問題集』における認識理論について解明していくことが主眼となる。2016年度の研究において、「人間知性による個物の認識」が一般的な主題となってきたという点に、14世紀の認識理論の一般的な特質があるということが明らかになったけれども、他方で、その理論組みにおいては、ブリダヌスとスコトゥスの間には差異があることは認めざるをえない。つまり、14世紀の認識理論は一枚岩ではないということである。 したがって、その多様性を析出してくためには、ブリダヌスの後の時代に活躍したオレームの認識理論を丁寧に分析していくことが必要である。そのうえで、いったいなぜそのような理論化を試みたのかという哲学的な動機付けをも意識しながら、テクストを丹念に読んでいくことが必要になってくる。また、オレームの認識理論に関しては、二次文献がまだそれほど多くはなく、まだ研究途上にあると言わざるをえない状況であるので、テクストを慎重に扱いながら、できるかぎり精確にその理論の内実を明らかにしていくことが必要になる。 以上のことから、オレームの認識理論の析出にあたっては、できる限り多くの研究発表の場に晒しながら、様々な研究者の意見や指摘を受けながら進めていくことが必要になるであろう。そのために、学会や少し大きめの研究会だけでなく、少し小さな規模の研究発表の場を設けながら、適宜、研究成果を表に出してくことが重要な推進方策となると考えている。
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