研究課題/領域番号 |
16K02139
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
辻内 宣博 東洋大学, 文学部, 准教授 (50645893)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 後期スコラ哲学 / 認識理論 / 知性認識 / 感覚知覚 / 魂論 |
研究実績の概要 |
「14世紀における認識理論の諸相」を明らかにしていくために,2017年度は2つの観点から研究を遂行した。 一方の観点では,ニコール・オレームの認識理論の分析に着手し,『デ・アニマ問題集』第2巻を中心として,オレームの感覚知覚論について詳細な検討を行った。他方の観点では,ドゥンス・スコトゥスとオッカムのウィリアムの神学的な側面と,ドゥンス・スコトゥスの認識理論を基にした倫理学的側面の概要を明らかにした。 後者に関しては,第76回日本宗教学会において,スコトゥスとオッカムの原罪論がどのような概略を持って後代に受け継がれたのかを,ガブリエル・ビールの整理から抽出し,また,上智大学中世思想研究所主催の講演会(2018年3月3日開催)において,スコトゥスの原罪論と倫理学との関係性を浮き彫りにした。 以上,2つの観点を通して,2017年度の研究は,概ね予定通りに進めることができたと考えている。なお,2018年度も引き続き,基本的なテクストの読解と二次文献の収集・調査に努めながら,ニコール・オレームの知性認識論(『デ・アニマ問題集』第3巻を分析の中心とする)について,検討を加えていくことになる。その際には,2016年度と2017年度の研究成果を踏まえながら,スコトゥスとオッカムについては,神学的な要素を意識したうえで,また,ビュリダンとオレームについては,アリストテレスからの距離を見定めながら,認識理論の外枠を明らかにしていくことが必要になると想定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度の研究目的は,ニコール・オレームの『デ・アニマ問題集』における感覚知覚論の基本構図を抽出することと,ドゥンス・スコトゥスとオッカムのウィリアムの神学的な視座と哲学的・認識論的視座との交錯を見据えることの2点であった。 前者に関しては,『デ・アニマ問題集』第2巻の主要問題について,翻訳と分析が終了し,形象(species)を核とした外部感覚理論と内部感覚理論との抽出がほぼ完成した。後者に関しては,原罪(peccatum originale)を中心とする神学的な議論の検討を行い,新しい道(via moderna)を代表する唯名論的(nominalistic)世界理解の構図を確認することができた。そして,こうした世界理解の方法と相関的な位置にあるのが,スコトゥスやオッカムの哲学的・認識論的な構図であり,神学と哲学の全体において一貫した視座を維持していることを看取することができた。 以上のことから,ニコール・オレームの感覚知覚論の析出,および,ドゥンス・スコトゥスとオッカムのウィリアムにおける神学と哲学との整合的な関係性の抽出という2点において,当該目標をおおよそ達成できたと考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は,ニコール・オレームの『デ・アニマ問題集』第3巻における知性認識理論について,テクストの精査な読解と精密な分析とを引き続き行っていく。それに加えて,オレームの『驚くべき事柄の諸原因について(De causis mirabilium)』において,任意討論集の形態で,いわゆる魂論やその活動としての認識理論について,自身の見解を提示しているので,この著作での主張との整合性をも吟味しながら,オレームの知性認識理論を出来る限り精確に析出していく。なお,この研究成果については,できる限り多くの研究発表の場で披瀝していくことを考えている。 他方で,14世紀に活躍した神学者・哲学者たちの見解を整理して,比較検討しながら,全体をマッピングする作業に着手する。具体的には,ドゥンス・スコトゥス,オッカムのウィリアム,ジャン・ビュリダンの3者について,彼らの魂論から,認識理論に至るまでの全体的な構図をまとめて,比較検討していく。なお,この研究成果については,少し小さめの研究会等での発表の場を設けながら,適宜,表に出していくことが重要な推進方策になると考えている。
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