研究課題/領域番号 |
16K02140
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
安孫子 信 法政大学, 文学部, 教授 (70212537)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 実証哲学 / 西周 / オーギュスト・コント / 生物学の哲学 / 歴史の哲学 |
研究実績の概要 |
西周(1829-1897)の仕事の真の意味を、西が根底的な影響を受けた、西洋の実証哲学、とくにオーギュスト・コント(1798-1857)の実証哲学に照らして明らかにすること、他方で、行き詰まり状態にある実証哲学の新たな展開の可能性を、西が行った実証哲学の独特な読解から探りだすこと、この二方向の仕事が課題研究の骨格をなしている。そして初年度2016年度において、この二方向それぞれで、一定の着実な成果を上げることができたと考える。 まず、西の仕事の解釈ということでは、これまであまり取り上げられて来ていない『人性三宝論』(1875)の徹底した読解を試み、それを2016年11月3日―4日にフランスのアルザス欧州日本学研究所で行われた国際シンポジウム「人間の試練にさらされている日本の〈自然〉」で、「西周の哲学における自然と人間―近代科学の受け皿の問題」のタイトルで発表した。西洋の伝統的な心身二元論を乗り越えるはずのコントの実証哲学、とくにその生物学の哲学が、骨相学の導入によっても二元論の乗り越えに成功していないことを指摘した西は、コントが退けた心理学に基づく独特の人間性の解明をこの『三宝論』で果たしており、ミルの功利主義をも超える、文字通りに実証的な人間性論がそこで示されていると主張した。 また、西の側からコント実証主義に光を当てるということでは、2017年2月23日に法政大学で行われた国際ワークショップ「新たな科学哲学としてのコント実証哲学」で、「Lire 'Comte after Positivism'de Robert,C. Scharff'」のタイトルで発表した。とくに歴史を決して事大主義的に掲げない西の態度に元づけて、Scharffのコント理解の読解を行い、コントの歴史使用について、西の側から解釈することを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
西周とオーギュスト・コントを突き合わせて実証哲学の再評価を行う場合、カギとなるのはまず生物学の哲学と社会の哲学(歴史の哲学)となるであろう。 初年度、限られた材料による、限られた部分(「心身関係論」と「歴史の進歩」の問題)についてではあるが、その二つの課題に置いて、両者の仕事の比較衡量を勧め、両者の内的かつ論理的な関係付けを進めることができた。 「心身関係論」の問題では、コントの「骨相学」に対して、西周の「心理学」が検討とされたのであり、「歴史の進歩」では、コントの「三段階の法則」に対して、西周におけるそもそもの「社会学の不在」が検討されたのである。そしてそのいずれにおいても、西周が西洋の実証哲学をある意味乗り越えていて、後者にいわば教えを垂れることができるほどの明哲を西の「哲学」は有していたことが、垣間見られたと思う。そしてこれは同時に、実証哲学から西周の仕事に、新たな意味付けを与えていくことでもあった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、初年度に得られた成果のさらに拡大を図りたい。西周の『百学連環』の全体を、構造と内容において、コントの『実証哲学講義』と比較衡量していくことを行っていきたい。そこでも、西周によるコントの読み替えや改鋳が多々確認されていくであろうが、そのような西周の作業が、同時代に、コントに対して同じような近さと遠さをもって仕事をした、イギリスのJ.S.ミルやスペンサーの場合とも比較して、西周の仕事の特質を、さらに明らかにすることができればと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外(フランス)での情報収集・資料調査を行う時間を確保できなかった。また買い替えを予定していたパソコンが幸いまだ使用に耐えた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には海外(フランス)での情報収集・資料調査を行う予定である。またパソコンの買い替えも考えていく。
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