現象学が身体性や志向性という概念を使って明らかにしてきたように、人間の日常経験は意識されない知覚や行動が多くを占める。またそれらは主として身体的な暗黙知を基礎としている。本研究は、人間性の自然化の方法を拡充深化するという見地から、そうした暗黙知の解明をめざした。暗黙知のなかでも特に、人間が無意識に行っている他人の心的状態や心的傾向性の理解といった技能に焦点を当てた。本研究は、この技能の記述的・経験的な解明という観点から、人間性の自然化可能性を探求した。さらに、この自然化可能性を倫理的観点から検討することによって、人間と知的能力をもった機械との共存可能性を探究する基盤を提供した。
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