研究課題/領域番号 |
16K02148
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 真 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (30536488)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 人口倫理 Population Ethics / 福利の集計 Aggregation / 価値の正と負 Value Bipolarity / 主体相対的価値 / 福利主義 Welfarism / 自然主義 Naturalism |
研究実績の概要 |
当該年度においては、人口倫理の問題を福利の正負(福と禍)の区別との関係で引き続き検討するとともに、そのような福と禍の区別を統一的に説明する理論を構想し、福利という価値の位置づけについて検討を行った。 人口倫理の領域においては、「いとわしい結論」と呼ばれるプラスだが低い福利水準の人口の評価に関わる問題と、「嗜虐的な結論」と呼ばれるマイナスの福利水準の人口の評価に関わる問題が知られている。この正負の絶対的区分が成り立つのでなければ、上記の人口倫理の問題設定自体が成り立たないため、この区分の妥当性を検討するとともに、この区分が成り立つとすればどのような規範理論が適切かということを考察してきた。申請者は論文「いとわしさと嗜虐のあいだ―正負場合分け功利主義の挑戦」(『人口問題の正義論』所収)において、この区分を倫理的に重要なものと暫定的に認め、人口の福利の総和(と一個人当たりの福利)が負から正に移る時に優先される福利の集計原理が総和型から平均型に入れ替わるという説を擁護した。 この福利の正負の絶対的な区別は人口倫理でも多くの福利の哲学理論でも前提されているものの、それを統一的に説明したり正当化したりすることは難しいとされている。申請者は、この難題を解決する福利理論を発表原稿として用意した。さらに、福利は他の価値や規範とどのような関係にあるのか、そして経験的事実のうちに位置付けることができるのか、といった永続的な哲学的問題について応答する論文を用意した。申請者は、福利は他の価値や規範すべての基礎ではないが、福利をその要素として含む主体相対的価値は他の価値や規範の基礎である、という趣旨の発表を行った。また申請者の見通しでは、主体相対的価値一般は経験的事実のうちに位置付けることができるため、福利に関する事柄も経験的事実に基づいて判定することができる。こうした趣旨の論稿は2019年度に公表する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
福利水準においてプラス、マイナス、ゼロ(ニュートラル)という絶対的な区分が成り立つかどうか、成り立つとすればどのようにこの区別が正当化できるのか、という本課題の核心的問題について答える論考を用意でき、またこの区別に基づいて人口倫理における福利の集計問題に一定の回答を与える論文を公表することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
福利の正負の絶対的な区別を統一的に説明する福利理論については、発表したうえで聴衆からのフィードバックを踏まえて改稿して公刊する。福利は他の価値や規範とどのような関係にあるのか、そして経験的事実のうちに位置付けることができるか、という点に関する論考も同様な手続きを踏んだ上で公刊する。また、福利の正と負を一元的尺度で比較したり集計したりすることができるか、という問題について、今年度中に自らの考えをまとめて発表する。
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