研究課題/領域番号 |
16K02150
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
田中 美紀子 神戸女子大学, 文学部, 教授 (80759613)
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研究分担者 |
加藤 泰史 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (90183780)
内田 浩明 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (90440932)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カント / オプス・ポストゥムム / 熱素 / 物質 / 自然科学 / 形而上学 / エーテル |
研究実績の概要 |
我々は平成27年の秋にオプス・ポストゥムム研究会を立ち上げ、本研究の準備を始めた。科研費交付後には計4回(28年4月、8月、12月、29年3月)の研究会を開催した。まず翻訳の原本となる『オプス・ポストゥムム』(以下OPと略記)のドイツ語テキストを選定し、翻訳分担を決定した。国内外の参考文献を収集し、研究動向を探ることも確認された。 そして、カントの未発表手稿の中の初期の草案である第4束の中のOktaventwurfの試訳に着手した。主な論点は、物質の種別的性質、熱素、エーテルの概念などであり、翻訳の推敲と内容に関する議論を進めた。続いて、OPの第3束のEntwurf A, Bの試訳を作成し、物質の運動力および物質論についての内容を検討した。 平成29年1月にオランダから招聘した研究者は、「経験の統一」について2本の講演を行った。彼によるとOPにおいてカントは、「経験の統一」を証明しようとする。この経験とは、「一つの」経験のことであり、何が経験を作るのかが問題になる。そこで「経験の可能性」と「経験のために」という二つの用語が重要になってくる。しかも、経験を寄せ集めるのではなく、経験を体系づける役割を物理学(Physik)が担うため、自然科学の形而上学から物理学への「移行」において「可述語(Praedikabilien)」という中間概念が必要となる。自己を触発し、自ら経験をなす主体としての「私」が、新プラトン主義的意味で神とつながり、ひいては世界とつながると考えられ、このような経験の統一性の中に形而上学から物理学への移行の根源が認められるという。 OPの初期草稿は、『自然科学の形而上学的原理』(1786年)と重なる部分もあるが、また相異する物質論も展開されている。「移行」の問題が批判期以降のカントにとって重要なテーマであったことが明白となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、年4回の試訳の検討に加え、海外から研究者を招聘しOPに関する講演会を開くことができた。それにより、最大の難関とも言える重要語句の訳語をおおむね統一でき、メンバー全員のOPへの理解が深まったことが大きな理由である。また、OPの翻訳経験のある研究者が、今年度の終盤から研究協力者として新たに研究グループに参加したことも理由の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
翻訳作業のスピードを上げるために、従来各自で行っていた翻訳作業の形態を改め、平成29年度はグループ内でペアを組んで、協力しながらドイツ語原典の翻訳にあたり、試訳を完成させる。その試訳を全員が集まる研究会で報告し、推敲や補足を行う。また、研究者間で訳語の統一を図り、作業効率を高めるとともに、より質の高い翻訳を行うことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究会参加のための旅費の支出を予定より低く抑えることができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の助成金は、三人の研究者の備品・書籍購入および研究協力者の研究会参加の旅費・謝金に使用する。また、海外から研究者を一人招聘し講演会を開催する予定であるので、彼に対する謝金、彼の講演原稿の日本語訳者への謝金、さらに講演の通訳者への謝金、講演会開催費用等に使用する。
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備考 |
大阪工業大学紀要
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