研究課題/領域番号 |
16K02152
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
宮野 真生子 福岡大学, 人文学部, 准教授 (40580163)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 愛 / 性 / 家族 / 性的身体 / 青鞜 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
本研究は、愛・性・家族を三位一体とした共生の形を再検討するための新たな理論的基盤の構築をめざすものであり、本年度はそのために、愛・性・家族の三位一体の成り立ちを思想史的に分析し、この三位一体ゆえに生じている現代的問題の検討をおこなうことを課題とした。 第一の課題に関しては、愛・性・家族を結び付ける起因となっている妊娠・出産する女性の身体の位置づけを日本の思想史から分析し、応用哲学会で発表をしたうえで、論文として公表した。また、近代日本の愛の思想史を考えるうえで欠かすことのできない西洋における「愛」概念について検討するため公開シンポジウム「聖愛と俗愛―西欧思想は愛と結婚をどう考えてきたのか」を開催した。 第二の課題である愛・性・家族をめぐる現代的問題については、多岐にわたる観点が含まれているため、複数回のシンポジウムを開催した。性と身体の関係については北海道大学応用倫理研究教育センターと共催で公開シンポジウム「性的身体と自己決定」を開き、とくにエンハンスメントとの関係を考察した。また、ジェンダー規範と生の関係については東京大学UTCPとの共催でワークショップ「規範と欲望のアクチュアリティ」を開き、アカデミックの世界におけるジェンダー規範の問題および女性の生き方についての討議をおこなった。そして、現代の家族をめぐる変容については新潟大学でワークショップ「家族の「きずな」を哲学する」と題して、とくに法学的な研究との連携を模索した。 さらに、本研究の最終目的である他者との共生を考えるうえで欠かせない偶然性/不確定性をめぐる問題にかんして、九鬼周造を倫理学的に検討することをおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の課題は、①愛・性・家族の三位一体を支える「愛」概念の思想史的解体と哲学的検討、②愛・性・家族が三位一体とされたことによる、アクチュアルな問題点の分析であったが、①に関しては、西欧思想史からの近代日本の捉え返し、および近代日本思想史における女性の身体観の分析をおこなうことができた。また、②に関しては、性的身体・ジェンダー・家族と法という多角的な視点から現代的な問題を扱い、そのために哲学・思想史だけでなく、宗教学・法学・社会学の研究者との連携をはかることができた。いずれの課題に対しても、発表・シンポジウム・ワークショップなどをおこない、広く意見を集めるとともに、そこで得た知見をもとにした分析が論文として結実している。 さらに最終目的である他者との共生を考える際に欠かすことのできない偶然性と倫理についての論文も2本公開することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題としては、①身体の抱える偶然性を哲学・倫理学的に検討すること、②愛・性・家族をめぐる現代的課題へのアクチュアルな視点を深めることが求められる。 ①に関しては、二つの研究方法をとる。第一に、京都学派、とくに九鬼周造・田辺元における身体と偶然性、および倫理の問題についての検討をおこなう。第二に、『青鞜』以降の女性たちによる性的身体をめぐる語りの検討を通じて、孕む身体と自然の関係を分析する。そのためには、京都学派に囚われない近代日本思想史への視座を獲得する必要があり、文学や女性史の研究者を招いた研究会の開催を計画する必要がある。 ②に関しては、現在、技術的な進展が著しいVRと性的身体の関係、およびセックスロボットと性的身体、家族の問題についての倫理学的な検討をおこなう予定である。その際、応用倫理・哲学領域の研究者からの知見を得る必要性があると考えている。
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