研究課題/領域番号 |
16K02158
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
大形 徹 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 教授 (60152063)
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研究分担者 |
大野 朋子 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (10420746)
山里 純一 琉球大学, 法文学部, 教授 (50166659)
佐々木 聡 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 日本学術振興会特別研究員PD (60704963)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | タマシイ / 苧麻 / 綿 / 石垣島 / 沖縄 / タイ / チェンマイ / リス族 |
研究実績の概要 |
2016年度は8月26日~9月1日まで石垣島・沖縄を調査。大形・大野・山里・佐々木が参加。山里は石垣島出身。その紹介により苧麻の調査を行った。苧麻はかつてはひろく栽培されていたが、いまも庭に植えている家はほとんどない。大野はこれまで数度にわたる現地調査を行っているが、1つも見つけられなかった。ところが山里の紹介により苧麻を栽培している宅地を数ヶ所、見つけることができた。苧麻を紡いで麻糸をつくる。交通事故にあったときにマブイ(魂)が落ちてしまう。沖縄の人々の魂は一つだけではない。マブイを籠めるために苧麻を紡いだ麻糸を手首に巻く。その際、麻糸に小さな輪を九つ作る。この小さな輪の数は七つの時もある。いずれも奇数。手首に巻く麻糸には名称はなく、手首に巻く行為も含め、マブイと呼ばれる。マブイゴミ(マブイ籠め)である。近親者が亡くなったときにも同様のことを行う。今回は実際に近親者が亡くなった方から、小さな輪が九つついた麻糸をいただいた。 2016年12月20日から12月26日まで、タイ北部の都市、チェンマイ周辺の少数民族の村落の調査をした。大野は10度あまりタイを訪れており、大形は3度目、佐々木は初めてである。大野の学生、縄井あゆみが参加、山里は参加していない。タイでは綿を調査した。リス族の村(ヴァン・メー・チャー・ヌ―)、男性 54才。体調がよくないため頸部に白色の綿の紐を何重にも巻き付けている。「ホン・フワン(魂を呼んでいる)」という。3日間、6日間、9日間巻いておく。魂の数は7つ。綿は昔は栽培していたが現在は商店で購入。若い人は手に巻く。巻くことは「レ・ベ・ツァ」といい、それによって魂が出ていかないようにする。「チョ・ハ・フワン(魂よ戻れ)」と叫ぶ。巻くのはシャーマンが巻き、自分では巻かない、という。苧麻と綿と植物は異なるが、体に巻くことでタマシイの脱出を防ぐことは同じである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
石垣島・沖縄だけでなく、タイのチェンマイ周辺の調査を行うことができた。石垣島には一度、沖縄には数度、タイのチェンマイには、大野は十回以上、大形も数度、訪れており、それらの予備調査もあわせて、考察することができた。論文ではなく、研究ノートとしてほぼできあがっている。聞き取りの話が多いため、研究倫理の審査を受けるつもりである。これとはべつに文献に関する調査を行った。2016.7.29-30に、中国湖南省平江・陽光酒店で開かれた、「道教国際研討会(人民大学・羅格斯大学 (Ratger University)共催」)において、「《千金翼方・禁経》与日本奈良二条大路呪符木簡(中国語)」という研究発表を行った。これは天然痘でなくなった藤原麻呂の邸宅址から出土した呪符である。天然痘を引き起こす瘧鬼をおいはらう辟邪の役割をもっている。『千金翼方』禁経にみえる呪文などと比較して考察した。これは論文集に収録されており、修正後、書籍として出版されることになっている。以上のことから、研究は、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
石垣島・沖縄だけでなく、タイのチェンマイ周辺の調査によって、手や頸にまくヒモとタマシイの関係について考察することができた。論文ではなく、研究ノートとして発表するつもりだが、ほぼできあがっている。聞き取りの話が多いため、まず研究倫理の審査を受けたい。本年は中国の雲南・シーサンパンナー、貴州を調査する。この地域には少数民族が多い。タイ族は、東南アジアのタイの人たちと同じ民族である。タイ族の高床式住居は日本の古代の住居に似ている。建築資材として竹を多用している。竹に縱に切れ目を入れ、平べったく加工して板にする。それを縱と横に編みこんで壁ができあがる。隙間はあるが気温の高い地域であるため、むしろ快適である。日本の家屋の土壁は骨組みが竹である。本来、竹の壁であったものに土を塗って風や寒さを防いだと考える ことができる。この地域は照葉樹林文化論でいう、東亜半月弧の中心に位置し、日本の九州や四国などと、気候、植物の種類、食べ物などが似ている。そこで生まれる文化的習俗もまた類似したものがある。ダレオやケーン(笙)などの竹を使った辟邪の共通性などをさぐりたい。あわせて中国の文献、とくに歳時記などを詳しく調査したい。あと、本年は9月にネパールに調査に行きたい。そこでは中国・タイ・沖縄・石垣島とは系統の異なる辟邪の考え方があると思われる。それらに現地でふれることにより、詳しく調査したい。それらの現地調査とはべつに、前漢の馬王堆漢墓出土の医学書『五十二病方』や唐孫思ばく『千金翼方』禁経に病気治療の呪文、当時の人々が信奉していた神が記される。これらを丹念に読み込み訳注を作り、その原理を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
翌年の旅費にまわすために、使用しませんでした。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度、ネパールを調査します。
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