研究課題/領域番号 |
16K02161
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研究機関 | 身延山大学 |
研究代表者 |
望月 海慧 身延山大学, 仏教学部, 教授(移行) (70319094)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 基 / 法華玄賛 / ヴァスバンドゥ / 世親 / 法華論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、中国に伝播した法華思想がチベットにおいてどのように展開したのかを解明することである。その基礎資料として中国法相宗の基による『法華玄賛』のチベット語訳を取り上げ、『法華玄賛』とヴァスバンドゥの『法華論』のチベット伝播に関する文献学的研究、漢文文献からチベット語訳の語彙に関する言語学的研究、チベットにおける法華思想の受容という思想史的研究を行う。それにより、大乗経典の内陸アジアにおける展開に関する研究方法を提示することを意図している。 本年度の研究実績としては、基による漢文『法華玄賛』のチベット語訳の翻訳研究については、第1章から第4章の和訳と漢文との対応箇所の比定作業を行い、このうち第4章を完成し、その成果を『大崎学報』に発表した。この翻訳作業に並行して、チベット語の諸版本を比較対照した上でのチベット語訳校訂テキスト作成のための準備作業も継続的に行った。 また、『法華玄賛』のチベット語訳における引用文献を調査し、漢文からの翻訳が省略されていない文献を特定した。これらは、チベット語訳では「注釈書より(’grel pa)」の言葉で引用されているものであり、そのうちの49例中39例がヴァスバンドゥの『法華論』に確認できた。これは、チベット語訳者による漢訳『法華論』の認識を裏付けるものであることから、チベットにおける『法華論』のチベット語訳に関する情報を分析した。この結果については、6月にノルウェイのベルゲン大学で開催された国際チベット学会と9月に東京大学で開催された日本印度学仏教学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『法華玄賛』のチベット語訳の翻訳研究については、全11章中残り第1章からの3章となっている。ただし、この3章の分量が全体の60%に及ぶが、すでに部分的に終了している箇所もある。また、翻訳と並行して、チベット語訳の諸版の対照と漢文からのチベット語訳の訳語データのサンプルの集積も並行して行うことで、校訂テキスト作成の準備作業も行っている。これらのことから、現時点で研究計画は、おおむね順調に進展していると考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の校訂テキスト作成作業に余裕をもたせるために、次年度は残りの章の翻訳研究を集中的に行う。また、作業を効率的に進めるために、場合によっては、チベット語諸版の対照などの単純作業について専門的知識を有する研究者に作業協力を依頼することも考える。 また、本研究課題の研究方法が他の仏教文献研究においても意義のあることを提示するために、漢文の『法華玄賛』がチベット語に翻訳された特徴とその背景について考察を行い、その成果を8月にカナダのトロント大学で開催される国際仏教学会において発表する予定である。
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