研究課題/領域番号 |
16K02164
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西村 直子 東北大学, 文学研究科, 准教授 (90372284)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヴェーダ / ヤジュルヴェーダ / マントラ / ブラーフマナ / ヴェーダ祭式 / ヴェーダ文献 / 古代インド / 印欧語比較言語学 |
研究実績の概要 |
ヴェーダ祭式文献の成立はB.C.1200頃まで遡ると考えられる。宗教,思想の歴史はもとより,当時の人々が如何に世界を理解し,共同体の維持,拡大を図り,異部族との交渉,共存或いは衝突に臨んだか,という人類社会の展開をも辿りうる,世界最古の資料の1つである。本研究では,その中のヤジュルヴェーダ諸学派が伝えるマントラ(祭詞,祝詞。B.C.1000頃)を取り上げる。当派は他の3ヴェーダ学派に先駆けて祭式整備を意図した文献編纂に着手し,精緻な神学議論の基盤を築いたと考えられる。その過程と各学派の影響関係及び独自性とを解明する為の出発点となる知見の提示を目的として,最古層に当たるマントラ集の訳注研究を新月祭・満月祭に焦点を当てて行う。また,これに付随して行う学派間の平行関係の精査を通じて,マントラ研究の方法論構築をも目指す。 2019年度は国際学会発表1件を行った(7th International Vedic Workshop, 8月20日,Dubrovnik)。また,隣接分野の研究会報告1件を行った(「アジアの伝統医学における医療・医学の倫理と行動規範、及びその思想史的研究」全体会議,東京大学,2019.8.2.)。 国際学会では,"Pravara mantras recited by Yajamana in the Yajurveda texts" の題目で,新月満月祭の祭官選任儀礼(Pravara)において祭主が唱えるマントラを巡り,ヤジュルヴェーダ各学派の伝承の異同を精査し,祭官選任儀礼に関する議論はタイッティリーヤ派で本格化し,整備はヴァージャサネーイン派の主導によってなされた可能性を指摘した。研究会報告では「ヴェーダ文献に言及される医療行為: 呪法の伝統とアーユルヴェーダ以前の医学」の題目で,ヴェーダ祭式の伝統における医療行為の位置づけを概観した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までに調査した個々のマントラに関する平行句の分布を,文献ジャンル,祭式,どの祭式行為に伴って唱えられるか,学派間の相互関係などの観点から吟味,整理して,分布状況の対照表を作成した。前年度に扱ったマントラは,各学派の間に相違点が多く見られる。また,当該マントラに対するブラーフマナの解釈も一層断片的であり,同一文献内の同一祭式に対するブラーフマナの記述態度が異なっている。更に,ブラーフマナについても,同一学派内部だけでなく,学派横断的に検証してゆく作業も当初の想定以上に慎重を要するものとなった。更に,式次第の再構成は本研究課題で扱う文献箇所(アドゥヴァリュ祭官が唱えるマントラ集の章)だけでなく,祭主の章と併せて検討する必要があることも改めて確認された。作成した対照表は完成版ではなく,今後更に精密化が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度までに残った問題点を整理,検討しつつ,2020年度の作業を進める。作成した仮の式次第を総点検し,サンヒター,ブラーフマナという古層の文献にもとづく式次第ならびにその展開過程を確定する。また,マントラの精査によって明らかにしうる事柄,得られる文献理解の手がかり,文献成立史や学派の展開史へのフィードバックなどの観点から,可能な限りすべてのチェックポイントを整理,分類し,必要と思われるすべての作業手続き等と併せて,マントラ研究の方法論をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内に納入されない物品があったため,ヴェーダ学関連図書購入に充当する。
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