本研究は、スリランカの上座部大寺派が伝承したパーリ仏典に基づいてスリランカ仏教史を構築する方法論的問題の解決を目指し、漢訳仏典を活用して、立体的なスリランカ仏教史の再構築を目指した。漢訳仏典とパーリ仏典との比較調査に基づきスリランカの研究を進める過程で、南アジア仏教におけるスリランカの上座部大寺派の特質や、近代において「大乗仏教」(Mahayana Buddhism)という概念がスリランカでパーリ語を学んだ釈宗演により「北方仏教」の同義語として用いられ、鈴木大拙を通して英語圏に定着する形成過程を解明することに成功した。それらの成果を踏まえ、今年度は、7月6日に東京女子大学丸山眞男比較思想研究センターにおいて「仏教の正統と異端」と題して発表し、9月21日に北京大学佛教典籍与芸術研究中心で「パーリ語世界はいかにして生まれたのか」(巴利語世界是如何誕生的)と題して発表し、10月27日に中山大学(中国広州市)で開かれたComparative Religion’s Studies in the Context of Traditional Indian Culture and Sinicization of Buddhismという会議で“Shaku Soen (1860/1919) in Ceylon: How modern knowledge of Indian Religions produced “Mahayana Buddhism””と題して発表し、11月27日には大正大学綜合佛教研究所で「初期仏教の研究方法」と題して講演した。
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