研究の全体構想は、インドのヒンドゥー正統哲学派のヴァイシェーシカ学派(インド実在論学派)が説く、事物を結び付ける<関係>(結び付けるもの)の概念を考察して、同学派の存在論の特徴を解明することにあった。すなわち、従来のように実体や普遍などの<結び付けられるもの>(関係項)に着目するのではなく、<関係>概念に着目して同学派の存在論を再評価することが全体の目的であった。 上記全体構想のなか、本研究の具体的な目的は以下3点であった。[1]<関係>の一種である<結合関係>の概念をその対概念である<分離>から分析し、[2]他学派が言及する<結合関係>への反論を回収、考察し、[3]<結合関係>ともう一種の<関係>である<内属関係>の両概念に基づく<関係>概念の総合化である。 そのうち、最終年度の計画は[3]の実施にあった。すなわち、前年度までの研究成果に基づき総合的な<関係>概念を構築し、ヴァイシェーシカ学派の存在論の特徴を明らかとすることにあった。具体的には、ヴァイシェーシカ学派の哲学書『パダールタ・ダルマ・サングラハ』(6C)の「結合関係」と「内属関係」の章を読解するとともに、同書に対する注釈書『ヴィヨーマヴァティー』、『ニヤーヤカンダリー』『キラナーヴァリー』の同章を参照しつつ、同学派の存在論の解明にあたった。 関係に着目することで同学派の存在論の構造化された姿を浮き彫りにすることができた。すなわち、事物の生成と破壊という点から世界構造のあり方をみた場合、同学派の体系では結合と分離なくして成立しえないことが判明した。従って、同学派の存在論を関係概念から考察するという視点は、重要性な知見をもたらす視点であったことを確認することができた。
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