本研究の目的は、山西省黄河流域の村廟に焦点をあて、「社火」の祭祀組織とその実践活動の実態を調べ、その地域的多様性をふまえて、土着の民間信仰の動態および地縁社会ではたす社会的結合のあり方を明らかにすることにあった。 初年度の平成28年度は晋西と晋西南の地域を中心に調査した。晋西では磧口鎮の黒龍廟と廟会など、晋西南では洪洞県唐堯故園、万安鎮歴山舜廟、臨汾市魏村牛王廟、曲沃県任庄村などを調査した。平成29年度は晋南、晋東南を中心に、介休市と万栄県の后土廟、Lu城市碧霞宮、澤州県及び陵川県などの咽喉祠を調査した。最終年度の平成30年度は、2年間の調査で晋東南に多様な廟と民間信仰が多く分布することが判明したので、この地域の調査に集中し、Lu城市と高平市の二仙廟、陽城県と澤州県の湯帝廟を調査した。聞き取りは、Lu城市賈村の「社首」(廟会組織のリーダー)と辛安泉鎮の「楽戸」の中心人物を対象とした。 社と村との関係は密接であるが、相関性には多様なレベルがあり、信仰の分布密度と地域的な特徴を考察する必要があることがわかってきた。組織としては、自主的あるいは義務的な性格もあれば、地方政府が介在している場合もある。祭祀が隣村以上に広がりをもつ事例では、社会的ネットワークが物資交易領域まで及んでいる。いずれにせよ社会的結合を形成する結節点としての廟、社のもつ役割は現在においても大きいことが明らかになった。 研究期間内に達成できた成果としては、論文が2本、中国の大学での講演、学会発表が2回ある。聞き取り調査による文字起こし原稿(A4)は全部で185ページになる。廟内の石碑文は可能な限り写真撮影をした。碑刻資料の解読は過去の諸相を知る上で欠かせない。現地調査で得た現在の諸相を同時にふまえることで、民間信仰の歴史的変容や地域的多様性および廟会が村落社会ではたす機能と組織の役割を考察することができる。
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