本研究は、社会科学(政治学、経済学、環境学)へと拡張された自然神学を、科学技術と東アジアという二つの文脈で具体化するという研究目的にむけて進められてきたが、平成30年度(最終年度)に実施された研究による成果の概要は次の通りである。 まず、科学技術の文脈であるが、2018年度は科学技術の中でも、特に、原子力、脳科学、AI、遺伝子工学といった現代において問題化しつつある諸問題について、宗教思想(特にキリスト教思想)との関係性という視点から、口頭発表と論文執筆を行った。最大のポイントは、科学技術がもたらしつつある人間理解(人格概念)の変容と宗教思想における人間理解との関連、つまり、両者の人間論の中に見出されるということである。これはまさに、今後の「科学と宗教」関係論の出発点となるべきものなのである。 次に、東アジアの文脈であるが、ここについても、本年度はこれまでの研究の集約が試みられた(その結果、研究経費における旅費と人件費・謝金が支出ゼロとなり、その分、研究の集約(データベース構築)と研究成果刊行とに関わる「その他」が膨らむことになった)。それは、『東アジア・キリスト教研究とその射程』としてまとめられたが、中心は、無教会キリスト教におかれている。特に、矢内原忠雄については、その原子力論が論じられたが、それによって、科学技術と東アジアの二つの文脈を結びつけることが可能になった。本研究の目的は、科学技術と東アジアという二つの文脈を結びつけることによって、「科学技術の神学」を構想することであったが、その最終成果の一端は、矢内原の原子力論に示されている。
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