研究課題/領域番号 |
16K02183
|
研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
安藤 泰至 鳥取大学, 医学部, 准教授 (70283992)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 生命倫理 / 宗教 / スピリチュアリティ / 障害学 / 尊厳死 / 在宅生活支援 |
研究実績の概要 |
当該年度は文献研究のうち、主として糸賀一雄とスタンリー・ハワーワスの思想研究を行う予定であったが、4年間の本研究全体の進行を見直した結果、来年度(平成29年度)に予定していた文献研究のもう一つの課題を先に行う方がよいと判断し、それを中心に研究を行った。すなわち、いくつかの生命倫理問題、特に出生前診断と選別的中絶の問題および安楽死・尊厳死の問題について、自律や自己決定を重視する主流の「生命倫理学」に対して、宗教的な観点からの批判と障害学的な観点からの批判に共通する部分と、互いが袂を分かつ部分について検討するための、広くさまざまな文献を渉猟し、読みこむことで、本研究全体の基になるような理論的枠組みを構築するための基礎作業を行った。 その成果は、日本スピリチュアルケア学会(「スピリチュアリティと有限性」)や日本生命倫理学会「「延命治療」という言葉をめぐる批判的考察」)をはじめとするいくつかの学会および研究会にて発表し、さまざまな研究者から共感と有益なコメントを得ることができた。また、研究成果の一部として、在宅で生活するALS患者など重度障害者の生をどのように支えるかという観点から「尊厳死」について再考した論考を川口・小長谷編『在宅人口呼吸器ケア実践ガイド』の一つの章として執筆した。 上記の文献研究を優先したため、当該年度に予定していた糸賀一雄とスタンリー・ハワーワスの思想研究については、現在はまだ国内外の文献を揃え、徐々に読み込んで行っている段階である。また、来年度および再来年度に予定しているインタビュー調査についても、インタビュー対象とするする人々の再検討、そうした人々の著作や論文などの渉猟と読み込みを開始した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に予定していた文献研究(糸賀とハワーワス研究)と来年度に予定していた文献研究(生命倫理問題に対する宗教的アプローチおよび障害学的アプローチの比較)の時間的優先順位を入れ替えたことによって、本科研研究によってはじめて取り組む新しい課題(糸賀とハワーワス)についてはまだ研究成果を発表できる段階にはないが、全体的にはおおむね順調に研究が進展している。また、来年度以降に行うインタビュー研究についての準備もある程度進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度は、糸賀一雄とスタンリー・ハワーワスの思想研究をいっそう進めるともに、糸賀については宗教哲学会にて研究成果発表を予定している。また、今年度の研究成果の一部は、昨年11月に行った日本学術会議シンポジウム「〈いのち〉はいかに語りうるか」をもとに日本学術会議叢書の一冊として刊行予定の書籍のなかに、「いのちの終わりをめぐる生命倫理問題」として論考を発表予定である。 さらに来年度は、予定通りインタビュー調査を開始する。対象者は高谷清氏と頼尊常信氏を予定している。 また、本科研研究の理念をもとに関係するさまざまな分野の研究者たちの議論と研究交流を推進するため、日本宗教学会大会においてパネルセッション「宗教・障害・共同体―障害と共に生きることの宗教性」を企画している。また日本医学哲学・倫理学会大会においても日本学術会議講演のシンポジウム「ケアの問題としての『尊厳死』―尊厳あるいのちをいかに支えるか?」を企画している。こうした企画によって、単に自分の研究成果を世に問うだけでなく、本研究における課題を共有できる(後により包括的な共同研究につなげることのできる)研究者たちとの交流を深めていくことで、本研究の意義を広くアピールすることにも努めたい。
|