研究計画最終年度に当たる本年度は、神学・宗教哲学領域に関しては、人間の神化のための根拠とされた「神の受肉」論をエックハルトはどのように理解しているかをラテン語著作中の主著と目されている晩年の著作『ヨハネ福音書注解』第116節から121節の解釈を中心にしてその全貌を浮き上がらせることを試みた。 これまでは「テオーシス」(人間神化)思想の実質的内容をなす、ドイツ語著作で展開されている「魂の内における神の子の誕生」の教説を神の恩恵によってある時に魂の内に生起する救済論的出来事として捉える文脈で検討してきたが、上記のテキスト箇所からはまったく異なるエックハルトの理解が浮かび上がってきた。神が人となったという救済論的出来事はわれわれの外で起こった範型(範例・手本)としてわれわれ人間ひとりひとりがいつか成就すべき事柄であるのではなく、イエス・キリストが誕生した瞬間にすべての人間において同時にすでに生起した救済論的事実であるというエックハルトの理解である。イエス・キリストの誕生によってわれわれすべての人間の人間的本性はキリストと同様に神性と結び付けられたのであるという究極的なキリスト媒介による救済論といえる。 こうした立場からは「魂の内における神の子の誕生」の教説とは、救済論的事実に無知である在り方からの解放、覚醒として説かれていると解釈できるであろう。こうしたエックハルト解釈の着想をエックハルトのラテン語テキストの正確かつ精緻な解釈を通じて論証した成果は2018年9月の日本宗教学会での発表をはじめとして講演等様々な形で発信をした。また図像学領域に関しても、オランス型キリスト像理解構築に必要な図像資料も海外調査で多数収集することができた。
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